現場レポ−ト & 質疑応答 & 対談
  中国知的財産制度の実務的なポイント


   
韓 登営 20040506

中国における実用新案制度および特許制度の活用について

〜 重複権利付与に関する判決から 〜




 はじめに
 事件の経緯
 専利復審委員会の判断
 一審法院の判断
 二審法院の判断
 二審判決の解読、私見
 今後の解決案

    
はじめに

 中国では、製品に関しては特許制度および実用新案制度のいずれを利用してその権利化をはかり、保護を求めることができる。しかし、特許の審査などには時間がかかり、かかる製品の権利化を早期に実現するために、実用新案の無審査制度を利用し、特許出願を行うと同時に、またはその前後に、実用新案特許も出願するケースが少なくない。

 このような特許の出願の取り扱いに関しては、中国専利局(現知識産権局、その権限の一部は日本特許庁に相当。)審査基準公報第6号(注1)は、以下のとおり規定している。

 すなわち、「特許出願の審査過程において、同出願人が同一の発明創作(注2) に関して提出した実用新案特許の出願にすでに権利付与したことを見付けた場合、当該特許出願が権利付与の条件を満たせば、審査官は、出願人が特許権または実用新案権のどちらかを選択するよう通知をしなければならない。

 この場合、出願人は、すでに取得した実用新案権の放棄を選択することもでき、または特許出願の取り下げを選択することもできる。出願人が期限内に回答しない場合、その特許出願の取り下げと見なされる。出願人の意見陳述または補正により、依然として中国特許法施行細則第12条第1項(注3) の規定に符合しない場合、その出願に拒絶査定をする。

 既に取得した実用新案権の権利放棄を選択した場合、出願人は審査通知書に対して回答を行うと同時に、書面をもってその声明書を提出しなければならない。専利局がこれを登記し、公告する。左記公告には、後の特許権の効力が生ずる日から先の実用新案権が放棄されることになるのを明記する。」

 この規定は、改正前中国特許法施行細則第12条第1項、すなわち「重複権利付与の禁止規定」にかかわるものである。この規定に対する理解をめぐっては、無効審決不服という行政訴訟事件が起こったのである。 

   
事件の経緯

 行政訴訟事件(以下「本事件」と称する。)の第3者(かかる特許の権利者)にたる舒 学章氏は、1991年2月7日に「ボイラー」に関する実用新案を出願し、当該出願は1992年2月26日に公告され、同年6月17日に実用新案権が付与された。そして、同年9月30日に権利付与公告に明記され、実用新案の権利番号は91211222.0である。当該実用新案権は更新手続きが行われたことによつて、1999年2月7日までに有効であった(注4) 。

 同第3者は、1992年2月22日に同様な主題である「ボイラー」について特許出願を行い、1999年8月14日に特許証書が交付され、1999年10月13日に権利付与公告に明記された。当該特許の番号は92106401.2である(以下「対象特許」と称する。)。

 2000年12月22日、済寧無圧ボイラー工場(無効宣告請求人、一審原告、二審上告人、以下「ボイラー工場」と称する。)は、上記実用新案の91211222.0(以下「引用実用新案」と称する。)を証拠にして、対象特許の権利付与は特許法施行細則第12条第1項に合致していないことを理由に、専利復審委員会(「日本特許庁審判部」と相当する機関。)に対象対象特許の無効宣告請求を提出した。

 この無効宣告請求に対して、専利復審委員会は、「対象特許の権利付与は特許法施行細則第12条の規定に違反しない」と判断して、対象特許の権利を維持する審決を下した。

 ボイラー工場は、この審決に不服であって、北京市中級人民法院(日本の「中等裁判所」に相当。)に提訴した。その後、中級人民法院は、「前記審決は、事実が明確で、適用した法律が正確で、かつ手続きも合法である」と判断し、審決を維持する判決(一審判決)を下した。

 ボイラー工場は、前記一審判決に不服として、さらに北京市高級人民法院(日本の「高等裁判所」に相当。)に訴訟を起こした。その後、高級人民法院は、専利復審委員会の審決および北京市中級人民法院の判決に「法律の適用が不当である」と判断して、審決及び一審判決を取り下げた(二審判決)。 

   
専利復審委員会の判断

 対象特許が権利付与された時、引用実用新案の権利は既に失効になった。そのため、発明主題が同様である対象特許と引用実用新案権の権利が同時に存在する状況はなく、対象特許の権利付与は特許法施行細則第12条第1項の規定に違反しない。 

   
一審法院の判断

 第3者が取得した実用新案権(特許)と発明特許とは、同様な発明主題に属し、同様な発明創作である。

 中国特許法および同法施行細則は、出願人が、同様な発明創作について同時にまたは前後に特許出願および実用新案出願を提出することを禁止することはない。施行細則第12条第1項第1項は、同様な発明創作に対して重複権利付与を避けるために規定したものである。すなわち、「同様な発明創作(創作)には一の特許のみを付与する」。

 これは、同様な発明創作に関しては、二つまたは二つ以上の有効な権利が同時に存続してはいけず、さもなければ法律に禁止される重複権利付与を構成することになると解することに相当する。本事件にかかわる特許権および実用新案権は、その保護期間においては間隔があり、同時に存続していないため、重複的な権利付与に該当しないものである。

 審査基準公報第6号(注5) は特許法施行細則第12条第1項の適用に関する規定である。本事件にかかわる特許が権利付与された時点、権利付与された実用新案権の有効期間が満了し、権利者の選択というような事情が存在しないため、本事件にかかわる特許権の権利付与は施行細則第1項の規定に違反しない。 

   
二審法院の判断

 同様な発明創作には一の特許(権利)のみを付与することができるとの規定に関し、「同様な発明創作」とは、技術分野が同様であり、解決しようとする技術問題および技術案が実質上同様である発明創作を指すことであり、「一つの特許のみを付与する」とは、一つの特許権または一つの実用新案権を付与すると解することである。本事件にかかわる第3者の先の実用新案権と後の発明特許が前記の発明主題が同一である特許または実用新案の定義に符合するため、第3者の発明と実用新案とが同様な主題の発明創作に属するものである、一審判決の判断は正確である。

 重複権利付与とは、同様な発明創作には二回にわたって権利付与することを指すことであり、同様な発明創作に基づく二つの特許的権利(特許権、実用新案権、意匠権。筆者注。)が同時に存続されることは「重複権利付与」の成立に必要不可欠な条件ではない。一審判決における「同様な発明創作に基づく二つの特許権が同時に存続していなければ、重複権利付与にはならない」という判断は、法的根拠がなく、かつわが国の立法精神に反する。わが国の特許制度の制定は、権利者の権利・利益への保護を図るだけでなく、社会公衆の権利・利益をも保護する。一つの特許はその終止にともなって公用領域に入ることとなり、如何なる人もこの公有する技術を利用することできる。

 本事件において、第3者の権利化された実用新案権の91211222.0は、1999年2月8日に権利期間の期間満了により失効になり、当該権利にかかる技術は公用領域に入った。同第3者の後の特許92106041.2は、先の実用新案権の91211222.0と「同様な発明主題を有している。1999年10月13日に行った特許92106041.2の権利付与は、既に公用領域に入った技術(前実用新案権。筆者注。)に対して再度権利(特許権。筆者注。)を付与することになり、重複権利付与に該当し、中国特許法施行細則の規定に違反するものである。 

   
二審判決の解読、私見

 二審判決は、中国特許法の立法精神に基づいて、公用領域に入った技術を再度権利化する保護を与えることは適法ではないと判断し、権利者および公衆の権利・利益のバランスをも配慮したものと認められるものとして、妥当であると思われる。

 重複的な権利付与の禁止は、特許権の性質によるものである。もし同一の発明創作に対して前後に複数の権利を付与することが可能になれれば、結果的にその発明創作に対する保護期間が不法に延長することになり、公衆の利益に害を与え、発明創作の更なる押し広げに不利である、といえよう。

 このような考え方から、二審判決では、重複権利付与とは、同様な発明創作には二回にわたって権利を付与すること、と定義付けました。すなわち、同様な発明創作に重複に権利を付与することは、同様な発明創作に対し、二つの権利が同時に存在すること、または二つの権利が前後に付与されたこと、を言うことと解する。

 このような理解から考えれば、同様な発明創作に関して、同時にまたは前後に特許出願と実用新案出願を行い、権利の早期化を図るやり方は、権利付与されたときの対応の仕方によっては、法に違反する可能性も出てきたように思われる。

 また、二審判決の考え方は、現行法に基づく審査基準に矛盾しているように思われる。すなわち、行政機関は、実用新案出願および特許出願を同時にまたはその前後に提出し、二択一で権利化を与えていくことを考えているが、司法機関はそれを否定するような考え方を示している、といえる。二審判決は、積極的に行政規程たる審査基準を否定しなかったのは恐らく中国特許出願の現状を念頭に置いたことに一因があろう。 

   
今後の解決案

 今後の解決案 この事件の判決を巡っては、中国の国内外の法曹界において一時期大きな話題となった。その後、中国最高人民法院が「特許侵害紛争事件を審理する若干問題に関する規定」(2003.10.27-29、検討案)において、同一の出願人による重複出願の取り扱いについての今後の方向性を下記の通りに示した。

 同規定第50条は、次の通りである。

 「専利法(注6) 第9条で言う同様な発明創作は、両出願または両特許が保護を求める発明創作が同一であり、同様な発明または同様な実用新案および同様な意匠を含む。同様な発明または同様な実用新案とは、クレームに保護を求めている技術案が同一であることを言う。明細書の内容が同一であるが、クレームに保護を求めている技術案が同一でない場合、同様な発明または実用新案に属しない。

 同一の出願人は、同様な発明創作についての実用新案出願と特許出願との両方を出願する場合、実用新案権が付与される前に国務院特許行政部門(注7) に(その事情についての)声明を提出しなければならず、かつ権利付与の公告においてもそれを公示する。後で権利付与される発明特許の保護期間は、先の実用新案出願の出願日から起算する。

 (上記事情を)公示しない場合、実用新案権が切れた後、当該技術が公用分野に入ったと見なし、他人による当該技術の実施が権利侵害にならない。

 (上記事情を)公示し、かつ実用新案権が終了する前に、出願人が実用新案権を放棄して特許権を取得し、または実用新案権の存続期間が終了後、初めて発明特許が権利付与された場合、その権利の保護範囲および侵害の判定方法は、権利の種類ごとにそれぞれに相応する法律、行政法規および司法解釈に適用される。実用新案権の存続期間が満了後、初めて発明特許の権利が付与された場合は、同規定第49条をも参照して適用される。

 同一の出願人が同様な発明創作についての実用新案出願と発明出願との両方を提出した場合、最初に権利付与された実用新案権を、権利者がライセンシーにライセンスをし、特許出願が権利付与された後、再度ライセンシーにその特許権を主張する場合、裁判所がそれを認めない。」

 この条項は、出願人が同様な発明創作についての実用新案出願と特許出願を行う際に、第三者に被害を蒙られないように、公示する制度をもって第三者の利益への配慮と、権利者の利益への配慮の双方を図るものであると思われる。

 当該条項は運用上他の法規定と関連する内容が多いであるが、実用新案制度を利用するうえで、下記の諸点を留意すべきではなかろうかと考える。 上記規定によれば、同様な発明または実用新案とは、クレームに保護を求めている技術案が同一であることをいう。明細書の内容が同一であるが、クレームに保護を求めている技術案が同一でない場合、同様な発明または実用新案に該当しない。

 そこで、同様な発明創作に関して、特許と実用新案の両方で権利化しようと考える際に、同一のクレームで出願をするか、それとも異なるクレームで出願をするか、が大きなポイントの一つになろう。 ここで、「技術案が同一である」とは、完全に同一と解釈するのが適切かと思われる。このような理解は、出願審査上でいう「同様な発明」に関する解釈と一致するだけではなく、権利行使の際に、自由公知の技術としての抗弁を考える場合も妥当であろう。

 したがって、中国実用新案制度と特許制度を活用する場合、企業戦略の実現に資する出願戦略のあり方にもよるが、出願人は、基本的に同一のクレームで出願した方がいいのではなかろうか。

 最後に、念のため付記しておくが、中国最高人民法院が起案中のかような規定は、現に検討中のものであり、あくまでも変化する中国の特許制度及び実用新案制度の今後の方向性の一つを示すものである。 

   

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改正中国特許法審査基準に書き込まれた。

中国でいう「発明創作」とは、日本でいう特許、実用新案および意匠を含んでいる。
改正中国特許法施行細則第13条。同一の発明創造には一の特許のみを付与することができる。

1984年の中国特許法は、実用新案に対しての保護期間は5年、更新手続きによりさらに3年間延長することができる、と規定している。
冒頭の説明をご参考されたい。

中国の専利法は、日本の特許法、実用新案法および意匠法を一体化したものである、と理解していただきたい。なお、中国語の「専利」は日本語の「特許」を意味する用語である。
中国知識産権局(前中国特許局)を指す。





編集作成 株式会社 技術経営創研 日中ビジネス支援室