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| | 第二弾 040202 | 特許権持分確認等請求事件 : 中村教授 vs 日亜化学 From 東京地裁 | ||||
原告の請求、及び事件の概要 |
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第一 原告の請求 一 主位的請求 1 被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の特許権につき,持分1000分の1の移転登録手続をせよ。 2 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成13年8月23日(訴訟提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 二 予備的請求(その1) 1 被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の特許権につき,持分1000分の1の移転登録手続をせよ。 2 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成13年8月23日(訴訟提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 三 予備的請求(その2) 主文第1項と同じ。 第二 事案の概要 一 請求の要旨 原告は,被告会社の元従業員であり,被告会社在職中に窒化物半導体結晶膜の成長方法の発明(以下「本件特許発明」という。)をした。この発明は,平成2年10月25日,被告会社により特許出願され,平成9年4月18日,発明者を原告,権利者を被告会社として設定登録された(特許 第2628404号。以下,この特許権を「本件特許権」という。)。 原告は,本件特許発明についての特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)は,同発明の完成と同時に発明者である原告に原始的に帰属し,現在に至るまで被告に承継されていないと主張して,被告に対し,主位的に,一部請求として本件特許権の一部(共有持分)の移転登録を求めるとともに,被告が本件特許権を過去に使用して得た利益を不当利得であるとして,その一部である1億円の返還及び遅延損害金の支払を求めている(前記第一,一)。 原告は,予備的に,仮に本件特許を受ける権利が職務発明として被告に承継されている場合には,特許法35条3項に基づき,発明の相当対価の一部請求として,本件特許権の一部(共有持分)の移転登録並びに1億円及び遅延損害金の支払を求めると主張している(前記第一,二)。 また,仮に,特許法35条3項に基づく対価請求として,特許権の一部(共有持分)の移転登録を求めることが許されない場合には,同項に基づき,発明の相当対価の一部請求として,200億円及び遅延損害金の支払を求めると主張している(前記第一,三)。 二 本件訴訟の経緯 原告は,平成13年8月23日,第一,一ないし三記載の裁判を求めて本件訴訟を提起した(ただし,訴訟提起時における予備的請求(その2)(第一,三)の請求額は,20億円であった。)。 当裁判所は,平成14年6月27日に口頭弁論を終結し,同年9月19日,第一,一記載の主位的請求につき,本件特許を受ける権利が被告会社に承継された旨の被告の主張は理由がある旨の中間判決をした(本判決末尾添付。以下,単に「中間判決」という。)。 中間判決以後は,本件特許権が被告会社に帰属することを前提に,特許法35条3項,4項に基づき本件特許発明の相当対価を請求する予備的請求(第一,二及び三)についての審理がされ,原告は,上記予備的請求(その2)の請求額を,平成15年6月17日に提出された同日付け原告準備書面(28)により50億円に,同月19日に提出された同日付け原告準備書面(29)により100億円に拡張し,さらに同年9月19日に提出された同日付け原告準備書面(46)により200億円に拡張した。 当裁判所は,平成15年10月24日に再び口頭弁論を終結した。 三 前提となる事実 (当事者間に争いがないか,あるいは当該箇所に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 1 当事者 被告は,蛍光体や電子工業製品の部品・素材の製造販売及び研究開発等を目的とする株式会社である。 原告は,被告会社の元従業員であり,現在,米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授である。 2 原告の就職 原告は,昭和54年3月,徳島大学工学部修士課程を卒業した後,被告会社に就職した。 被告会社は,従来,蛍光体原料(リン酸カルシウム)及び蛍光体の製造販売を主たる業務としていたが,原告の就職当時には,蛍光体以外に新規開拓すべき分野として,赤色LED(発光ダイオード)等の半導体結晶膜の原料となるGaメタル(ガリウムメタル)の精製に取り組んでいた。 原告は,就職後間もないころから,GaP(ガリウム燐)の研究開発・製品化に従事し,また,赤外及び赤色LEDの原料となるGaAs(ガリウム砒素)の研究開発・製品化に従事した。さらには,赤色LEDのチップを製造するため,GaAlAs(ガリウムアルミ砒素)結晶膜の液相エピタキシャル成長方法の研究開発に取り組んだ(甲4,93〜96等)。 3 青色LED研究開発の着手 原告は,昭和63年ころ,当時誰も開発に成功しておらず,実用化は21世紀になるだろうといわれていた青色LED(発光ダイオード)を新たな研究開発テーマにしたいと考え,LED(発光ダイオード)の半導体結晶膜を成長させる方法として有機金属気相成長法(MOCVD)を学ぶため,被告会社の許可を得て,同社の費用で米国フロリダ州立大学に約1年間留学した(甲96等)。 4 MOCVD装置 原告は,平成元年4月ころに帰国した後,被告会社に納入されていた市販のMOCVD装置(訴外株式会社日本酸素製)を用いて,GaN(窒化ガリウム)の結晶膜の成長に取り組み始めた。 ただし,同装置は,原料となる元素(N,Ga等)を供給するガスの配管や反応装置部分の構造が複雑である上に,ガスの供給条件(流速,角度等)や反応温度の設定によって,無数の反応条件の組み合わせがあり,製品化に耐え得る質のGaN結晶膜を成長させるのは容易なことではなかった。原告も,当初は,上記市販装置に添付されたマニュアルを参照するなどして結晶膜の成長を試みたが,満足のいく質のGaN結晶膜を得ることはできず,自らガス配管の形状を改造し,基板を加熱するヒーターを設計して自作するなど,試行錯誤を繰り返した。 5 本件特許発明 原告は,平成2年9月ころ,上記市販装置の反応装置部分を改造し,基板に対して概ね平行な方向から反応ガスを,実質的に垂直な方向から不活性ガスを,それぞれ供給するように自作したMOCVD装置(以下「ツーフロー方式1号機」という。)を用いて,窒素化合物半導体結晶膜の成長方法に関する本件特許発明を発明した。 被告会社は,同年10月25日,本件特許発明につき原告を発明者,被告会社を出願人として特許出願をした。この特許出願に際して願書に添付された明細書における特許請求の範囲の記載は,下記のとおりであった(以下,この出願を「本件特許出願」といい,本件特許出願に際して願書に添付された上記明細書を「当初明細書」という。乙102[特開平成4−164895号]参照)。 「基板の表面に反応ガスを噴射して,加熱された基板表面に半導体結晶膜を成長させる方法において,基板の表面に,平行ないし傾斜して反応ガスを噴射すると共に,基板に向かって押圧拡散ガスを噴射することを特長とする半導体結晶膜の成長方法。」 6 被告社規 ところで,被告会社には,昭和56年に取締役会で制定され,昭和60年に改正された社規第17号が存在する。同社規は,昭和60年の改正により名称を「発明・考案及び業務改善提案規定」と改め,昭和60年6月10日から平成8年ころまで施行された(乙7の1。以下,昭和60年改正後の社規第17号を単に「被告社規」という。)。したがって,本件特許発明がされた平成2年9月ころには,被告社内における職務発明及び考案等の扱いを定めるものとして,上記被告社規が施行されていた。 被告社規には,次のような条項が置かれている。 第1条(目的) 従業員が行なう発明・考案及び業務改善の取扱いについて定め,創意工夫の意欲を高め,社業の向上に資する。 第2条(発明・提案の内容) 発明・考案,改善提案の内容は,次の通りとする。 1.発明・考案は,その性質上会社の職務範囲とする。 2.(省略) 第3条(資格) 従業員は,すべてこの規定により発明・考案及び改善提案を行なうことができる。 第4条(職制の義務) 部課長は常に部署の業務内容を把握し,発明・改善及び特許問題等の発掘に努め適切な対策と指導を行い,特許,実用新案に関する権利の侵害を防ぐため,公報の閲覧等を行い必要な対策を講ずる。 第5条(提出方法) 提出方法は次の通りとする。 1.発明・考案を行なった時は,その案を所属長を経て特許担当部門に提出する。 2.(省略) 第6条(業務分担) 担当部門は,次の業務を行う。 1.特許担当部門 @発明・考案の受付及び出願手続の点検と弁護士・弁理士への委嘱 A特許委員の選任及び委員会の招集 B表彰手続及び決定事項の報告 Cその他特許に関する必要事項 2.(省略) 第7条(委員会) 発明・考案及び改善提案の推進と効果の拡大を図るため,各委員会を置き,委員会は原則として毎月1回以上開催し,次の業務を行う。 1.特許委員会 @特許出願及び技術保全に関する審議 A異議申立及び特許係争に関する審議 B特許情報管理及び啓発に関する審議 C特許・考案の内容評価 2.(省略) 3.(省略) 第8条,第9条(省略) 第10条(表彰及び褒賞) 従業員が行った発明・考案及び改善提案に対し,別に定める基準(付則−1)により表彰及び褒賞金を支給する。 そして,第10条を受けて定められた社規第17号付則−1には,次の条項が置かれている。 T (省略) U 発明・考案関係 1.審査及び表彰基準 発明・考案の評価は,下記事項に基づき特許委員会が審査を行い,上長の承認を受け表彰する。賞金はその都度決定する。 @特許出願件数 A権利取得状況 B内容の検討 2.褒賞金支給基準 @特許出願1件につき 10,000円 A権利成立1件につき 10,000円 B認証1件につき 5,000円 C実用新案出願1件につき 5,000円 D実用新案成立1件につき 5,000円 7 出願補償金の受領 原告は,本件特許発明が出願された平成2年10月25日ころ,上記被告社規10条及び社規第17号付則−1,U,2.@の規定に基づき,被告会社から1万円の支払を受けた。 8 GaN系バッファ層及びp型化アニーリングの各発明 原告は,本件特許発明をした後も,ツーフロー方式1号機を用いて,より結晶性の高いGaN結晶膜を成長させる方法の研究開発に努めた。そして,平成3年3月ころには,LED素子の基板となるサファイア基板の上にGaN系の化合物からなるバッファ層を成長させることを特徴とするGaN系化合物半導体の結晶成長方法に係る発明(特開平成8年−8217号)をした。被告会社は,そのころ,同発明を特許出願した(以下,この発明を「GaN系バッファ層の発明」という。甲63,161等)。 また,原告は,同年12月ころには,当時原告の部下であった被告会社従業員Bと共に,有機金属気相成長法(MOCVD)によりp型不純物(例えばMg)をドープしたGaN系化合物半導体を成長させた後,400℃以上の温度でアニーリング(熱処理)を行うことを特徴とするp型GaN系化合物半導体の製造方法に係る発明をした。被告会社は,そのころ,同発明を特許出願した(後の特許第2540791号。以下,この発明を「p型化アニーリングの発明」という。甲63,161等)。 9 InGaN結晶膜の成長 平成4年に入ると,被告会社は,前記市販のMOCVD装置(訴外株式会社日本酸素製)を更に数台購入し,反応装置部分をツーフロー方式1号機と同様に改造して(以下,これらのMOCVD装置を「ツーフロー方式2号機等」という。),同1号機と共に稼働させ,GaN系化合物半導体の開発製造を進めた。 原告は,同年3月ころには,いわゆるpn接合型のLEDを試作し,同年6月ころには,いわゆるダブルへテロ構造のLEDの発光層を形成する,結晶性の高いInGaN結晶膜を成長させることに成功した。 10 ダブルへテロ構造の青色LEDの製品化 原告は,平成5年に入ると,ダブルへテロ構造のLEDの試作に成功し,同年12月ころ,被告会社は,世界で初めて同構造の青色LEDの製品化を発表した。 この青色LEDの製品化を報じる平成6年2月7日付け日経産業新聞の記事(甲92)には,「1988年に青色LEDの研究に着手した日亜のN主任研究員は,苦心の末に独自の『ツーフローMOCVD(有機金属化学的気相成長)』装置を開発。結晶と基板をぴったりと合わせることに成功し,ちょうど1年前に発光を確認した。技術的な完成度が高く,同社は試作品を通り越していきなり本格生産に踏み切った。‥‥‥本社工場に設けた生産ラインの歩留まりは『80%』(D技師長)で,四月から月間百万個単位の出荷を計画している。価格は一個五百円。」と記載されている。 11 高輝度LED及びLDの製品化 原告は,上記ダブルへテロ構造の青色LEDの製品化に続き,さらに発光輝度の高いLEDを製作するため,量子井戸構造の発光層からなるLEDの研究開発に着手し,これに成功した。 被告会社は,平成7年9月ころ,世界で初めて量子井戸構造の発光層を有する高輝度青色LED及び緑色LEDの製品化を発表した。また,平成8年9月ころには,これも世界で初めて白色LEDの製品化を発表した。 また,原告は,LED(発光ダイオード)にとどまらずLD(レーザーダイオード)の研究開発も進め,平成7年9月ころには,世界で初めてInGaN井戸層及びInGaN障壁層からなる多重量子井戸構造の発光層を有する紫色LDの発振に成功した。 その後の平成11年4月ころ,被告会社は,世界で初めて上記多重量子井戸構造の発光層を有する紫色LDの製品化を発表した。 12 拒絶理由通知と補正 他方,当時出願中であった本件特許発明に対し,平成8年8月22日付けで拒絶理由通知書(乙104)が発せられた。この拒絶理由通知は,公知文献である「Journal of Electronic Materials,14〔5〕(1985)」(乙103)を引用した上,同文献の第5図(Fig.5.)には,当初明細書の特許請求の範囲に記載された発明と同一の半導体結晶膜の成長方法が記載されている旨を指摘するものであった。 被告会社は,上記拒絶理由通知を受けて,同年11月16日付けで意見書(乙105)を提出し,上記文献の第5図に記載された半導体結晶膜の成長方法は,基板に向かって平行な方向及び垂直な方向の両方から反応ガスを噴射し,半導体結晶膜を成長させるものであるのに対し,出願に係る発明は,基板に垂直な方向に反応ガスを含まない不活性ガスを押圧ガスとして供給する相違点がある旨の意見を述べた。また,被告会社は,同日付けで手続補正書(乙106)を提出し,明細書における特許請求の範囲の記載を,下記のとおり補正することなどを内容とする補正を行った。 「加熱された基板の表面に,基板に対して平行ないし傾斜する方向と,基板に対して実質的に垂直な方向からガスを供給して,加熱された基板の表面に半導体結晶膜を成長させる方法において,基板の表面に平行ないし傾斜する方向には反応ガスを供給し,基板の表面に対して実質的に垂直な方向には,反応ガスを含まない不活性ガスの押圧ガスを供給し,不活性ガスである押圧ガスが,基板の表面に平行ないし傾斜する方向に供給される反応ガスを基板表面に吹き付ける方向に方向を変更させて,半導体結晶膜を成長させることを特徴とする半導体結晶膜の成長方法。」 13 本件特許権の設定登録及び登録補償金の支払 本件特許発明は,平成9年4月18日に設定登録された(特許第2628404号)。 原告は,そのころ,上記社規第17号付則−1,U,2.Aの規定に基づき,被告会社から1万円の支払を受けた。 14 被告会社の実施する方法 なお,被告会社は,本件特許権が設定登録される直前の平成9年4月15日ころ以後,別紙「被告方法目録」記載の方法(以下「被告現方法」という。)を実施して,青色LED及びLD等の半導体発光素子製品を製造している。 15 特許異議と訂正 平成10年1月8日,本件特許権に対して特許異議の申立てがあり,特許庁から取消理由通知が発された。 被告会社は,同年7月14日付けで,不明瞭な記載の釈明を目的として,発明の名称「半導体結晶膜の成長方法」を「窒素化合物半導体結晶膜の成長方法」に訂正するとともに,特許請求の範囲の減縮を目的として,前記補正後の明細書における特許請求の範囲の記載を下記のとおり訂正することなどを内容とする訂正請求をした(乙1,3,86)。 「加熱された基板の表面に窒素化合物半導体結晶膜をMOCVD法でもって常圧で成長させる方法において,基板の表面に平行ないし傾斜する方向には,窒素化合物半導体の原料となる反応ガスを供給し,基板の表面に対して実質的に垂直な方向には,反応ガスを含まない不活性ガスの押圧ガスを供給し,不活性ガスである押圧ガスが,基板の表面に平行ないし傾斜する方向に供給される,窒素化合物半導体の原料となる反応ガスを基板表面に吹き付ける方向に方向を変更させて,窒素化合物の半導体結晶膜を成長させることを特徴とする窒素化合物半導体結晶膜の成長方法。」 16 本件特許の維持 特許庁は,平成10年11月18日,上記訂正を認めた上で,本件特許を維持する旨の決定(乙1)をし,この決定は確定した。 したがって,被告会社は,上記訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)における特許請求の範囲に記載された発明に係る特許権(本件特許権)を,設定登録日である平成9年4月18日から存続期間満了日である平成22年10月25日まで有するものである。 17 原告の退職 原告は,平成11年12月に被告会社を退職した。 |
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| 特別転載 by 株式会社 技術経営創研 | ||||||