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| | 第二弾 040202 | 特許権持分確認等請求事件 : 中村教授 vs 日亜化学 From 東京地裁 | ||||
当裁判所の判断 1/2 |
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第四 当裁判所の判断 一 主位的請求についての判断 第一,一の主位的請求に対する当裁判所の判断は,中間判決「事実及び理由」欄の第4記載のとおりである。 すなわち,本件特許発明は職務発明に該当すると認められるところ,同発明がされた当時,被告社規が特許法35条にいう「勤務規則その他の定」に該当するものとして存在したほか,遅くとも同発明がされる前までには,従業者と被告会社との間で,職務発明については被告会社が特許を受ける権利を承継する旨の黙示の合意が成立していたと認められる。また,本件特許発明の特許を受ける権利については,原告と被告会社の間で,これを被告会社に譲渡する旨の個別の譲渡契約も成立していたと認められる。したがって,本件特許発明の特許を受ける権利は,特許法35条に基づき,発明者である原告から被告会社に承継されたものであるから,上記権利が原告に原始的に帰属したまま,被告会社に承継されていないことを前提とする原告の主位的請求には理由がない。 二 予備的請求についての判断 1 はじめに (1) 相当対価の算定方法について 従業者によって職務発明がされた場合,使用者は無償の通常実施権(特許法35条1項)を取得する。したがって,使用者が当該発明に関する権利を承継することによって受けるべき利益(同法35条4項)とは,当該発明を実施して得られる利益ではなく,特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)と解するのが相当である。ここでいう独占の利益とは, @ 使用者が当該特許発明の実施を他社に許諾している場合には,それによって得られる実施料収入がこれに該当するが, A 他社に実施許諾していない場合には,特許権の効力として他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者があげた利益がこれに該当するというべきである。後者(上記A)においては,例えば,使用者が当該発明を実施した製品を製造販売している場合には,他社に対する禁止の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して,これを上回る売上高(以下「超過売上高」という。)を得ているとすれば,超過売上高に基づく収益がこれに当たるものというべきである。また,使用者が当該発明自体を実施していないとしても,他社に対して当該発明の実 施を禁止した効果として,当該発明の代替技術を実施した製品の販売について使用者が市場において優位な立場を獲得しているなら,それによる超過売上高に基づく利益は,上記独占の利益に該当するものということができる。 B 他社に実施許諾していない場合については,このほか,仮に他社に実施許諾した場合を想定して,その場合に得られる実施料収入として,独占の利益を算定することも考えられる。 このようにして,使用者が特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)を認定した場合,次に,当該発明がされる経緯において発明者が果たした役割を,使用者との関係での貢献度として数値化して認定し,これを独占の利益に乗じて,職務発明の相当対価の額を算定することとなる。 特許権は,その存続期間を通じて特許発明の実施を独占することのできる権利であるから,上記の独占の利益も,また,特許権の存続期間満了までの間に使用者があげる超過売上高に基づく利益を指すものである。当該利益の認定に当たって,事実審口頭弁論終結時までに生じた一切の事情を斟酌することができるのは,当然である。 そして,勤務規則等に職務発明の対価の支払時期が定められている場合には,特段の事情のない限り,相当対価は当該支払時期を基準として算定された額であることが予定されているものと解されるから,特許権の存続期間を通じて算定される上記の独占の利益は,中間利息を控除して当該支払時期の時点における金額として算定するのが相当である。 (2) 本件における検討 本件特許発明については,当事者間において,被告会社が他社に実施許諾していないという点につき争いがないので,当裁判所としても,これを前提として判断する。 被告会社は,本件特許発明がされた後,本件特許発明に不活性ガスの所定の圧力に関するノウハウを付加した被告当初方法により青色LEDの製品化を行ったが,その後,被告当初方法から被告現方法への切り替えを進め,平成9年4月15日以後は,被告現方法を実施して,高輝度青色LED及びLDを製造している(このことは,当事者間に争いがない。)。 そこで,本件特許権により競業他社に対して本件特許発明の実施を禁止していることにより,被告会社が,高輝度青色LED及びLDの製造販売において,市場において優位な立場を獲得し,これによる超過売上高を得ているかどうかが問題となる。 この点を判断するためには,本件特許発明と被告現方法との関係,高輝度青色LED及びLDの製造に当たって本件特許発明が果たす役割等を,検討する必要がある。 そこで,まず,本件特許発明と被告現方法との関係を検討し,次に,本件特許発明の内容と高輝度青色LED及びLDの製造に当たって本件特許発明が果たす役割等について検討する。 2 本件特許発明と被告現方法 (1) 被告は,被告当初方法については本件特許発明に不活性ガスの所定の圧力に関するノウハウを付加したものであって,本件特許発明の改良発明に属するとして,本件特許発明の技術的範囲に属することを争わないが,被告現方法については,本件特許発明とは別個の技術思想に基づく発明であるとして,本件特許発明の技術的範囲に属することを争っている。 しかしながら,当裁判所は,被告現方法は本件特許発明の構成要件をすべて充足し,その技術的範囲に属するものと判断する。その理由は,別紙「被告現方法についての当裁判所の判断」記載のとおりである。被告の主張するところは,要するに,ノウハウに係る部分の構成が付加されているから,被告現方法は,本件特許発明とは技術思想を異にする全く別個の発明であるということに尽きるものであるが,被告現方法は,本件特許発明の技術的原理を前提として,その作用効果を高めるために実施態様を工夫したか,せいぜい改良発明としての意味を持つものでしかない。被告の主張は,採用できない。 (2) なお,上記のとおり,当裁判所は,被告現方法は本件特許発明の技術的範囲に属すると判断するものであるが,特許権侵害訴訟と異なり,本件のような職務発明の相当対価請求訴訟においては,上記の点は,必ずしも相当対価の算定に当たり結論に影響を与えるものではない。すなわち,仮に,本件特許発明の各構成要件の文言を狭義に解釈して,被告現方法は文言上本件特許発明の技術的範囲に属しないとし,また,被告現方法と本件特許発明の相違部分につき当業者が容易に想到することができないとして均等の成立も否定する立場をとるとしても,別紙「被告現方法についての当裁判所の判断」記載の理由によれば,被告現方法が本件特許発明を基本的原理として利用した技術であることは明らかである。そして,後記のとおり(後記3,4参照),本件特許発明が,高輝度青色LED及びLDの製造のためのGaN系半導体結晶膜を成長させるに当たって決定的な役割を果たす技術であることに照らせば,競業他社に対して本件特許発明の実施を禁止することにより,被告会社が高輝度青色LED及びLDの市場において競業他社に対して優位な立場を獲得していることは,優に認められるところである。そうすると,仮 に被告現方法が厳密には本件特許発明の技術的範囲に属しないとしても,被告会社が高輝度青色LED及びLDの市場における優位な立場を通じて得ている超過売上高は,いずれにせよ,本件特許権の取得により本件特許発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)と認定すべきものだからである。 3 本件特許発明の内容等について (1) 未完成発明の主張について 被告は,本件特許発明のようなツーフロー方式MOCVDにおいて,結晶性の高いGaN系結晶膜を成長させるためには,基板に平行ないし傾斜した方向から供給される反応ガスを層流の状態に保つため,基板の上から供給される不活性ガスを所定の圧力で供給することが不可欠であるところ,本件明細書にはこの所定の圧力に関する要件が開示されておらず,本件明細書の記載によれば,本件特許発明は未完成発明というべきである(第三,二2(3)ア)と主張する。 特許権者である被告自身が,本件特許発明を未完成発明であるとして,本件特許の有効性を疑問視するような主張をする真意は必ずしも明らかでないが,本件明細書(中間判決に添付した特許公報及び異議決定参照)の記載を前記出願経過(第二,三5,12,13,15,16)に照らして精査しても,また,この点に関連して被告から提出された各証拠(乙94〜95,149等。枝番号省略。以下同じ。)を検討しても,本件特許発明が未完成発明ということはできないし,本件明細書の記載に不備があるとも認められない。 かえって,原告は,本件特許発明が特許出願されて半年もたたない平成3年3月には,本件特許発明に係るツーフロー方式を用いて,基板の上にGaNバッファ層を形成して高品質なGaN層を成長させる(前記「GaNバッファ層の発明」)ことに成功していること(甲63,161),被告自身が,少なくとも平成8年11月16日ころまでは,本件特許発明の改良発明に係るツーフロー方式MOCVD(被告当初方法)を実施したことを自認している(第三,二2(3)ア)ことなどに照らせば,本件特許発明は,その特許出願の当時において,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)として完成していたものであり,かつ,本件明細書の記載にも欠けるところはないもの(同法36条4項1号参照)と認められる。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。 (2) 本件特許発明とノウハウ 被告は,また,本件特許発明を含むツーフロー方式MOCVDにおいては,不活性ガスの所定の圧力の最適条件に関するノウハウが極めて重要であって,良質なGaN結晶膜を成長させるに当たって本件特許発明が果たす役割は,被告現方法及びこれを実施した被告現装置が果たす役割に比して著しく小さく,100分の1にも満たない(第三,二2(1)ウ)などとも主張する。 たしかに,MOCVD自体が非常に精密な技術であり,わずかな条件の相違によりGaN系半導体結晶膜の成長が左右されるものであることは,MOCVDの専門家である原告本人もこれを自認している(第16回口頭弁論における原告本人尋問調書93頁以下)。その点からすれば,被告が主張するように,本件特許発明を産業的に実施して高輝度青色LED及びLDを製品化するためには,本件明細書に直接開示された以外のいわゆるノウハウに属する部分が,少なからぬ役割を果たしていることが推測されないではない。しかしながら,これらのノウハウは,本件特許発明の技術的原理を前提として,その作用効果を高めるために実施態様を工夫したものか,せいぜい改良発明としての意味を持つものでしかなく,本件特許発明が存在しない限り意味を持たない。 したがって,本件特許発明について,これを産業的に実施するために本件明細書に開示されていないノウハウが必要であったとしても,高輝度青色LED及びLDの製品化のための特許発明としての,本件特許発明の評価に影響を与えるものではない。 4 高輝度青色LED及びLDの製造における本件特許発明の位置付け (1) 前記の前提となる事実(第二,三記載)に証拠(原告本人(第1,2回。以下同じ。),甲21〜23,51〜54,57〜59,63,66,74,148〜151,154〜156,161)及び弁論の全趣旨を総合すれば, @ 本件特許発明が発明されたことにより,青色LEDの製品化に耐え得る質のGaN系化合物半導体結晶膜の成長が可能となり,そのことがきっかけとなって,原告は,GaNバッファ層の形成や,発光層に用いられる良質なInGaN結晶膜の成長などに次々と成功し,それまでのLEDの研究開発の歴史からすれば,画期的な早さで青色LED及びLDの製品化に至ったものであり,被告会社における青色LED及びLDの開発の経緯に照らすと,本件特許発明は,高輝度青色LED及びLDの実用化に必要な,いくつかの重要な技術的課題の解決のきっかけとなった基本特許の地位を占めるものであると認められ,また, A 被告会社は,高輝度青色LED及びLDの市場,とりわけ収益性の高い高輝度青色LEDの分野において,競業他社に対する優位を保っているものであるところ, B 競業関係にある豊田合成及びクリー社も,それぞれMOCVD方法によりGaN系化合物半導体結晶 膜を成長させていることがうかがわれるものの,結果として,青色LEDが製品化されて以来現在に至るまで,本件特許発明を独占して実施する被告会社の製造する高輝度青色LEDに比して,常に何割か輝度の劣るLEDしか製造できておらず,このことからすれば,高輝度LED及びLDに関しては,本件特許発明の方法によってもたらされる結晶膜の質の差が,製品となった半導体発光素子の品質(輝度)に決定的な役割を果たしているものと認められる。 この点に関して,被告は,GaN系青色LEDの製造に関与する技術(特許)として被告会社が保有するものとしては,@ 結晶性の良いGaN結晶膜を成長させる技術である本件特許発明のほかに,A サファイア基板上にバッファ層を設ける技術(前記「GaNバッファ層の発明」),B p型GaN化合物半導体を製造するために不純物Mgをドープする技術,C Mgドープによりp型化する際のアニール(熱処理)技術(前記「p型化アニーリングの発明」)などが存在することを指摘するものであるが(原告も,この点は争わない。),前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,前掲Aの技術,すなわち基板上にバッファ層を設ける技術については,被告会社が原告の発明に係るGaNバッファ層を用いているのに対し,豊田合成及びクリー社は,代替技術であるAlN(窒化アルミニウム)バッファ層を用いており,前掲Bの技術,すなわちp型半導体を得るために不純物Mgをドープする技術自体は,1970年代から研究され,開発されてきた公知の技術である。また,前掲Cの技術,すなわちp型化のアニール(熱処理)技術については,原告の共同発明に係るp型化アニーリングの発明は,たしかにp型半導 体の安定した量産に貢献するものであるが,必ずしも高品質な結晶膜の形成に貢献するものではないし,豊田合成が使用する,A名古屋大学名誉教授らの研究グループ開発に係る電子線照射によるp型化という代替技術が存在する。したがって,前掲A〜Cの技術についていずれも代替技術ないし独自技術を有する競業会社である豊田合成及びクリー社に比して,被告会社が常に何割か輝度の高いLED及びLDを製造し続け,市場における優位性を保っているのは,被告会社が本件特許発明を実施して半導体結晶膜を製造し,他方,本件特許権の存在により競業会社である豊田合成及びクリー社が本件特許発明を用いて半導体結晶膜を製造することができないことに起因するものといわざるを得ない。 現在の製造メーカーの状況においては,短期間に多数のMOCVD装置を入手することは不可能であり,加えて,前記のとおりMOCVDは非常に精密な技術で,わずかな条件の相違により結晶膜の成長が左右されるものであり,ツーフロー方式の装置における最適化条件を見付けるには,ある程度の年月を要することに照らせば(前掲各証拠,弁論の全趣旨),競業他社が将来本件特許発明に比肩する代替技術を開発する可能性を考慮しても,なお,少なくとも本件特許権の存続期間の満了する平成22年10月までの間は,市場における被告会社の優位性はゆるがないものと推認できる。 また,スタンレー電気が,NS博士の発明に係る半導体膜結晶成長技術である「温度差法」を用いて高品質な赤色LEDを製造し,高輝度赤色及び黄緑色LEDの市場において昭和53年以来今日に至る約25年間もの長期間にわたって優位を保っていること(前掲各証拠,弁論の全趣旨)に照らしても,LEDの製造においては高品質な結晶を成長させることが重要なポイントであり,青色LEDの市場においても,窒化化合物半導体の結晶膜成長方法である本件特許発明を用いて製造された被告会社の製品の優位性が市場において今後も長期間保たれることが予測される。 (2) 被告は,また,本件特許発明の方法により成長させたGaN系半導体結晶膜の品質は,他の技術により成長させた結晶膜の品質に比して必ずしも良好ではないと主張し,この点に関する証拠(乙113〜114,130〜135,157〜158,160〜164)を提出する。また,現在では,市販の汎用機であるMOCVDを用いても,本件特許発明の方法により成長させた結晶膜に劣らない品質の結晶膜を成長させることができるなどとも主張する(第三,二2(1)イ参照)。 しかしながら,前者の点については,そもそもいかなるデータによっても半導体結晶膜の質の優劣を一義的に決定することは困難であって,例えばGaN結晶膜の場合は電子移動度がひとつの目安になるものの,最終的には,GaN,AlGaN及びInGaN等の各種結晶膜を重ねて構成された発光素子の輝度を比べることで結晶膜の優劣を推測するしかなく,少なくとも産業上,経済上の観点からの評価としては,このような方法により比較するほかなく,かつそれで十分と認められる(原告本人,甲158,163,弁論の全趣旨)。また,被告の提出に係る上記各証拠を検討しても,比較の基礎となる製法の差異以外の他の条件(例えば結晶膜の膜厚等)が必ずしも明確でなく,結晶膜の優劣を論じるのに有意な比較であるかどうかが不明であるから,これをもって,被告の上記主張を裏付けるものということはできない。また,後者の点についても,この点に関する被告の主張を裏付けるに足りる客観性のある証拠は提出されておらず,被告の主張を採用することはできない。 |
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| 特別転載 by 株式会社 技術経営創研 | ||||||