進化が続く遠隔教育の今日 |
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設立当初のペダル発電式のラジオに比べると、双方向式のHigh Frequency(HF)ラジオも優秀だったかもしれないが、現在のスクール・オブ・ジ・エアはというと、デジタル化が飛躍的に進み、双方向のブロードバンド衛星ネットワークによって授業が送受信されているという。教師はビデオカメラと電子ホワイトボードを使用し、生徒はコンピューターに添えつけられたWebカメラで、リアルタイムで授業に参加しており、生徒間のコミュニケーションも可能となっている。
パラボラアンテナとコンピューターのお陰で、ノーザンテリトリーからニューサウスウェールズまで、遠隔地にある農場や家庭、学校、アボリジニーの居住地などを含む547のエリアをカバーすることが可能となった。2005年の段階で16のスクールが設立され、これらのサービスがカバーする領域は150万平方キロメートルの広さだという。
さらに、遠隔地の子供だけでなく、オーストラリア中を移動して生活する子供や、病気やその他の理由で学校へ通えない子供、高等学校教育や大人の生涯教育などにも対応しており、「どこに住んでいても自分の教育を修了できる環境」が整っている。まさに、教育インフラ整備の意義が実感されるひとコマである。 △ |
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通信教育からeラーニングへと変身させたITのパワー |
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日本においても、どこにいても自分の教育を修了できる「通信教育」は昔からあるが、通信教育というと、家庭の主婦や高齢者などが自分の趣味や教養のためにカルチャーセンターなどで学ぶ、というイメージが強かった。しかし、経済社会の急激な変化にともなって知識の陳腐化が早まっている近況や、雇用不安から自己投資を行うケース、また少子化と成人比率の上昇、団塊世代の大量退職などによって、教養に時間と費用をかける層が拡大しており、またこうした生涯学習への熱意が現在の日本の通信教育を拡大させている。
言うまでもなく、この生涯学習への熱意を強く後押ししているのが20世紀に始まったIT革命である。2001年のe−Japan戦略を皮切りに、矢継ぎ早に政府によるIT政策が進められ、ブロードバンド回線や動画利用は急速に拡大した。これにともないインターネット利用人口も増加の途をたどり、現在では全ての年齢層に広がっている。インフラ改善とともにeラーニングのコンテンツが拡充し利便性も向上したため、そのニーズは飛躍的に拡大した。政府や自治体もインターネットを使った生涯学習の情報提供体制を整備しており、独立法人化した大学や、その他教育サービス企業も、継続的な成長が見込める生涯学習市場の獲得に向け、eラーニングによる講座提供を活発化させている。
中でも、私が特に強い印象を受けたのは、全ての講義をインターネット授業で行う「サイバー大学」や、一部をインターネット授業で行う通信過程のみの「八洲学園大学」、アートを学ぶ通信教育(Boston
School of Music)の出現である。これまでの通信教育だけでは考えにくかった大学卒業資格やアートに関し、どこからでも自分の教育を修了できる門戸が開かれたことは意義深いと思われる。また、eラーニングベンダーの多くが提供するIT技術系講座以外にも、公認会計士や中小企業診断士などのビジネス系、危険物取扱主任者やガス主任技術者などの技術系の資格など、eラーニングの学習内容は多様化が進んでいる。財団法人日本サッカー協会(JFA)が、2007年12月からサッカー審判員資格の更新に関する講習をeラーニングにて提供しているのも非常にユニークである(注3)。 △
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距離を越えたしくみと技術のロマンは無限 |
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eラーニングは、書籍や対面型学習と比較しても相対的に安価である場合が多く、学習内容の選択の幅も広がっていることから、これからも市場は活発化すると思われる。一方で「モチベーションの維持が困難」というデメリットも挙げられているが、これについてはコンテンツ制作の工夫や、先生や生徒同士のコミュニケーション環境の整備など、ベンダーによる努力は継続されており、今後の改善が期待される。個人的には、英会話スクールで「海外にクラスメイトができた」と感激したように、オンラインならではの面白みは皆無ではないと感じており、付加価値追求型のプロモーションも予想されるところである。
更に、2006年より政府が掲げるu−Japan戦略により、これまでの有線中心のインフラ整備から、有線・無線の区別のないシームレスなユビキタス(注4)ネットワーク環境への移行も進められている。生活の隅々までInformation and Communication Technology (ICT)が溶け込むことで、今後の教育インフラがどのような変革を遂げるのかに大いに期待したい。
一方、サイバー大学で、本人確認が不十分なまま単位取得を試みたという「なりすまし問題」が一時話題に上ったこともあった。あらゆる詳細な情報がコンピューターで把握されるユビキタス社会の実現で、このような問題が如何に解消されるかについては現段階では見えにくいが、根本的に、受講者側の前向きに学びたいという姿勢なくしては、遠隔教育は展開しにくい要素があるのかもしれない。「学びたい」という切実な思いによって結ばれていた、オーストラリアの遠隔地に住む生徒や先生達の努力が思い出される。
学びの姿勢を支援する、距離を越えたしくみと技術の恩恵。今、私達は時空を超え、もう1人の「スクール・オブ・ジ・エア」の生徒となっている。 △
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注記 |
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注1 アリススプリングス・スクール・オブ・ジ・エアに関しては、下記サイトを参照。
http://www.assoa.nt.edu.au/index.html
注2 スクール・オブ・ジ・エアの始まりや全体像などより詳細な情報に関心をもたれる方は下記参照。http://www.cultureandrecreation.gov.au/articles/schoolofair/
注3 ご関心のを持たれる方は、サイバー大学 http://www.cyber-u.ac.jp/ 、八洲学園大学
http://yashima.study.jp/univ/ 、Boston School of Music http://www.e-musicschool.com/ 、JFA http://www.jfa.or.jp/family/referee/news/0710_index.htmlを参照されたい。なお、eラーニングを論述している文献例として、大嶋淳俊「生涯学習時代のIT支援型セルフラーニング」シンクタンクレポート(季刊)2008
vol.1参照。http://www.murc.jp/report/quarterly/200801/182.pdf
注4 拙稿では主要な論点になっていないが、「ユビキタスの概念、ユビキタスを支える技術、ユビキタス社会の利点と問題点」について分かりやすい説明されている文献の一例として、http://secondlife.yahoo.co.jp/business/special/060621/index.html 参照。 |
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