工藤 麻衣 20071220


コウノトリが再び羽ばたく空へ

随 想




    
「赤ん坊や幸福を運ぶ」と言われるコウノトリ

 ヨーロッパでは赤ん坊や幸福を運ぶ鳥として親しまれているコウノトリは、高い屋根や塔の上に巣を作り、雌雄共同で抱卵、子育てをする。
 
 日本列島にはつい60年前までコウノトリが普通に棲息していたという。しかし、明治期以後の乱獲や巣を架ける木の伐採などにより棲息環境が悪化し、コウノトリは1956年には20羽にまで減少し、その年国の特別天然記念物に指定された。さらに1986年2月28日には飼育していた最後の個体が死亡し、国内繁殖野生個体群は絶滅した。現在、兵庫県ではロシアから譲り受けたコウノトリを人工飼育で繁殖し、自然に還す試みが行われている。
 
 日本では一度絶滅した鳥、人間に餌を与えられて守られた空間で生活していた人工飼育の鳥が、厳しい自然界で生き延び繁殖してゆくことが出来るのだろうか。

 私は以前海外で絶滅の危機に瀕するテナガザルのリハビリテーションセンターでボランティアとして活動を手伝った事がある。そこでの活動は、密猟で捕獲されペットとて人間に育てられたテナガザルをセンターで引き取り、自然に近い状態で飼育を行い、自然に帰る適正がありそうな個体を自然に放し、絶滅の危機にある野生テナガザルの生息数を増やそうというものだった。

    
自然に還すために必要な三つの条件とは

 自然に還す事は簡単な事ではなかった。@生息地の確保、A密猟の防止、B行動の把握などが難しく、自然に還ったテナガザルが生息数を増やすまではいたらなかった。この3つの条件はテナガザルの場合に限らず、どの動物を自然に還す時でも必要な条件ではないだろうか。兵庫県でもまた、コウノトリを自然に還す試みを成功させるために、この3つの条件に取り組んでいる。

 かつてコウノトリは人間が作った里山に生息していた。しかし環境汚染や里山の荒廃により生息地が少なくなり、絶滅に追いやられた。再びコウノトリが住まう里作りとして兵庫県では、転作田のビオトープ(生物生息空間)化、アイガモで防虫・除草を試みる田んぼの低農薬・無農薬化、冬期に田んぼに水をはり生物の住処を確保する湛(たん)水化などを推進しコウノトリの生息地の確保に取り組んでいる。ただ、コウノトリが餌場として好む湿地や沼地も、格好の営巣場所となるマツの高木などの再生にはまだ取り組めていない現状である。

 また、密猟もコウノトリの絶滅の原因の一つであった。兵庫県では将来コウノトリが密猟されない社会作りを目指し、子供達に「田んぼの学校」などの餌場教育や里山整備など環境教育を行ったり、また県民に広く勉強会の場を設けたりしている。この活動により、県民がコウノトリに興味をもち、コウノトリが自然に還ることの重要性を理解し、密猟の起こらない社会作りを狙っている。

              さらに、放鳥したコウノトリの行動範囲を把握することは、生存数の把握、生態の解明に役立ち、コウノトリを自然に還す計画の成功をサポートする。行動を把握するため、兵庫県ではコウノトリに電場発信機をつけた。発信器のアンテナは1分間に1回、電波を発信するよう設定。米国の気象衛星が受信し、フランスの基地局からインターネットを通じて同公園に発信源の緯度や経度のデータが送られてくる仕組みで、この情報と目撃情報を合わせ、放鳥後のコウノトリの生息情報を把握するのに役立てている。

    
空に戻ってくるコウノトリを見る夢を持ち続けたい

 このように兵庫県はコウノトリを自然に還す計画を成功させるため、生息地の確保、密猟の防止、行動の把握に取り組んでいる。しかしコウノトリを自然に還す計画はまだまだ始まったばかりである。その成果はコウノトリが自然界で繁殖し数を増やし、また60年前のように里山にてコウノトリが普通に見られるようになって初めて実を結ぶといえるだろう。

 2005年9月より放鳥されているコウノトリ、現在では14羽が自然に放され今年5月には放鳥ペアの中から1羽ヒナが孵った。絶滅危惧種の「再導入」は、世界中で進められてはいる。しかし成功例は極めて少なく、成果を上げているのは、南米のサル、ゴールデンライオンタマリンなどわずかだという。絶滅種を自然に還すパイオニアとなり、またコウノトリが再び羽ばたく空が戻ってくるように、今後も兵庫県の取り組みに注目してゆきたい。
 
 コウノトリを自然に還す計画が実現されたら、大いにお祝いしたい。自然に還したというより、自然との調和の実現にきっと新たな技術が生まれ、また新たな夢がもたれることになるのではなかろうか、と私はそういうように気がする。

    
○ 兵庫県立コウノトリの郷公園 △ 写真

筆者は技術経営創研 事業統括部 ビジネス開発室主任