渡辺 義光 20091225


人の未来とネイチャーテクノロジー

〜ささやかな考察を兼ねて〜




    
1.はじめに

 私は、リモートセンシング関連の業務に関わっていたこともあり地球環境問題に大きな関心を持っている。
 
 地球環境問題は、人間活動の自然への影響拡大に伴い、地球温暖化、資源・エネルギー、生物多様性の問題、食料や水の配分、人口問題等が挙げられる。この対策の一つとして、以前は森林機能に注目していた。森林は多面的な機能(国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全(生物多様性)、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等)を有し、人類が誕生してきてから多くの恵みを森林から得てきており、環境再生においても重要な位置付けにある。

 しかしながら、今後、何百年、何千年後も人類が地球で生存して行く為には、現在の社会構造、テクノロジーの方向性を改めて見直し、人の生活そのものを変える必要があるではないのかと考えた。それを実現化するには、地球が誕生してから地球環境を維持してきた自然生態系のシステム、そのシステムに適合する為に進化した生物、植物の持つテクノロジーを学び人類の生活に取り入れ、地球環境に影響が極めて少ないテクノロジーを開発利用することで、地球(自然)と共存する必要があると考えている。
 
 今回はこの分野に注目し、ネイチャーテクノロジーについて個人的な感想を述べさせていただく。 

    
2.ネイチャーテクノロジーとは

 現代社会のテクノロジーは、産業革命以来大きく発展してきた自然の持つエネルギーを際限なく利用し、人の欲求を満たす為に生まれた物欲のテクノロジーとも呼ばれている。それに対して、地球が生まれてから自然界のあらゆる生物が厳しい自然環境下で生存する為に進化、適応することで生まれた特殊な能力、構造を自然テクノロジーと呼んでいる。
 
 ネイチャー・テクノロジーとは、すでに地球に存在する自然テクノロジーを模倣するだけではなく、自然のもつ循環システムを化学の観点で学び賢く活かす新しいテクノロジーであり、自然生態系への影響を極力少なくした循環型テクノロジーを示している。
 
 ネイチャーテクノロジーの素材例として、シロアリ塚の例を示す。(注1)
 シロアリ塚はエアコンを使わなくても、内部の温度や湿度はほぼ一定に保たれており、通気性、湿度コントロールをヒントに空調にほとんどエネルギーをかける必要がない建物や住宅が実際に作られ始めている。これは、土の粒子と粒子の間には、数ナノメートル(10億分の数メートル)の隙間があり、この隙間と土の表面の性能が、温度、湿度を調節したり、臭いを浄化したりする機能を利用したものである。
 
 補足:森林機能の中では、植物の香り成分の健康効果の研究が、「植物と健康」において共感する「森林セラピー」をネイチャーテクノロジーと言う場合もある。 

    
3.地球のある面の現状

 現在、地球の環境問題が重要な問題として取り上げられている。その問題が発生した要因として、人は一度快適で便利な生活を経験してしまうと、更にそれ以上のものを欲するようになる。これまでの快適ではなく不便な生活へ戻ることを望む者は殆どいないと考えられている。生活の維持向上は、社会で生活・労働する目標でもある。

 企業は、人の欲求を満たすためにあらゆる道具を開発、製造し提供する。それにより、生活に必要不必要に関わらずあらゆる道具は進歩し、利便性が向上している。これらの道具の殆どは地球の資源エネルギーを利用することにより開発したものである。
 
 その結果、1950年から2000年の50年間で、人間活動は、2,4倍、GDPは8.1倍、石油の年間使用量は7.3倍、発電量は21倍に増加してきていると算出されている。この増加により、二酸化炭素の大気中濃度は工業化以前の約280ppmから2005年には379ppmに増加し、過去65万年間の自然の変動範囲(180〜300ppm)をはるかに上回ることが明確に提示された。(注2)
 
 このまま資源エネルギーの消費は際限なく増加し、化石燃料(石油、石炭、天然ガス等)のみばかりでなく金属資源が枯渇することは明白である。石油需給見通しは、基準ケースでは2037年頃との事である。このままでは、地球環境はバランスを崩し、人の存続に関わる状況が訪れると考えられている。(注3)。 

4.ネイチャーテクノロジーの現状

 実際にネイチャーテクノロジーの素材となるテクノロジーは殆ど創出されていないのが現在の状況のようである。しかし、今後ネイチャーテクノロジーを創出するには、現代人が心豊かに暮らせる“新しいライフスタイル”を具体的にデザインすることが必要である。
 
 そのライフスタイルを実現するのに必要な技術を抽出し、マッチングする技術要素を自然の中から選択し、そのテクノロジーを模倣するのではなく、その技術要素を新たなテクノロジーとして新たにデザインする取り組みを行っていくことが大切である。


図 地球にやさしいテクノロジーのデザイン

 このデザインに必要な自然の技術要素を取得、選別するためには、自然技術情報の技術要素を管理するデータベースを作成する必要があり、その情報を収集したデータベース構築する必要があり、現実に構築されている(ネイチャーテックテクノロジーデータベース(非公開))。

 自然テクノロジーを現代テクンロジー模倣する技術として“バイオミミクリ”の紹介及び、“ネイチャーテックテクノロジーデータベース”に登録されている技術要素を紹介する。

●バイオミミクリ(Biomimicry)(注4)

 自然のモデルを学び、そのデザインやプロセスを真似て(又はインスピレーションを得て)人間界の問題を解決する、新しい科学である(ジャニン・ベニュス(生物学者))。
 生命体には進化的な圧力による高度な最適化があり、効率的であるため、これを人工物の構築に応用することが考えられた。古典的な例としてはハス科の植物の表面を研究することにより、撥水加工技術が生まれた(ロータス効果)。他にも、イルカの肌を模倣した船殻、コウモリの反響定位を模倣したソナー、レーダー、医用超音波画像などがある。コンピュータの分野では、生体工学の研究から人工神経、ニューラルネットワーク、群知能などが生まれている。

●ネイチャーテクノロジーデータベース(注5)

 データベースは、自然のメカニズム別に分類されている。その分類を以下に示す。
(1) 軽い強くしなやかな自然(強度、材料、構造)
 例:ハンマーで叩いても割れないアワビの殻,しなやかで強いクモの糸、軽くて強い骨等
(2) くっつく、離れるを自在に操る自然(接着、分離、分解)
 例:細菌の持つ水中接着剤、どこでもくっつくヤモリの足、季節を感じて剥がれる木の葉等
(3) 光で色を織り成す自然(感情操作、計測、色彩構造)
 例:構造色(多層膜干渉,薄膜干渉)昆虫、魚、蝶,オパールの規則的光の干渉等
(4)  水を導く自然(自然の循環を司る物質の利用)
 例:ハスの撥水性表面、ゴミムシダマシの親和性、撥水性能力による水を集める能力等
(5)  病気治し、人を癒す自然(薬、抗菌剤、リラックス、活力)
 例:大量の雑菌やウィルスが繁殖する中で暮らすハエの幼虫の生態防護機能等
(6) 極限の中を生きる自然(極限の環境下での生命力)
 例:マイナス273度で眠る緩歩動物、極限の環境変化に耐えるクマムシ等

 ネイチャテクノロジーの素材の発見、技術の開発・進歩させる為には、これまでの技術に捕らわれないグローバルな視点で挑むことの出来る研究者、技術者を育成することも重要な課題であること。新しいテクノロジーを取り入れた製品は、これまでの製品と異なる優れた機能を持つことで、社会に受け入れられないこともあると考えられる。しかし、将来的には受け入れられ、広く浸透し、地球環境問題、社会や人の生活に役立つ時代が来ると期待している 


5.テクノロジーへの夢とロマン

 本来テクノロジーは、人に平和な生活と豊かな心をもたらす為に生み出されたものである。しかし、その現代テクノロジーが急速に進化し、地下資源が枯渇する状況に近づくまで利用し、地球が何千年かけても自然の循環の中では分解、再生できない自然界に存在しない道具を生産している。その道具の生産過程、生産物、生産廃棄物が地球自然生態系を破壊するまでに影響を及ぼしている。人は自ら生活している環境を破壊・消失し、地球に生存すること自体困難な状況を作り出してきている。
 
 これまでの人の歴史の中で問題の大小はあるものの、文明崩壊の危機を迎えても、人はその危機を乗り越えて現在に至っているのも事実である。

 今回紹介したネイチャーテクノロジーは、自然の持つテクノロジーを学び、自然の循環の中で人の生活も共存し、かつ現代の生活レベル、テクノロジーレベルを下げる事無く、自然に極力影響を与えない進化したテクノロジーである。地球環境問題に対応する多くの手段の1つであるが、実用化レベルには、まだまだ時間が必要とされる技術である。

 しかしながら、地球環境問題は直前に迫ってきており、早急な対応が必要である。ネイチャーテクノロジーの様な自然に影響の少ないテクノロジー開発を急ぎ対応するのか、現在のテクノロジーを更に進化させて現在の生活を維持継続するか、また、新たにオリジナルなテクノロジーを生み出し、そのテクノロジーを使って現在直面している様々な問題を解決し、この地球の自然と共存していくのか。その選択肢は、数え切れない。

 テクノロジーは地球環境問題を解決する唯一の手段でないが、重要な役割を担っている。今後生まれる新しいテクノロジーが地球環境問題を少しでも解消し、そのテクノロジーが実現化する新しい社会や生活を想像すると、テクノロジーが生み出す未来に夢やロマンを持たずにはいられない。 


注記

注1 自然のすごさを賢く活かす新しいものづくり「ネイチャー・テクノロジー」。
    http://www.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/manabi34/mm34-2.html

注2 2007年二月発行 気候変動に関する政府間パネル第四次評価報告書。
    http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html

注3 国際エネルギー機関(IEA)が2004年に発表。http://www.iea.org/

注4 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』。http://ja.wikipedia.org/wiki/生体工学

注5 石田秀輝『自然に学ぶ粋なテクノロジー(なぜカタツムリの殻は汚れないのか)』(化学同人出版)


参考文献

 ・環境会議(2007年春号,秋号)          出版社:宣伝会議
 ・環境再生医(環境の世紀の新しい人材育成を目指して)
  監修:自然環境復元学会 編者:NPO法人 自然環境復元協会 出版社:環境新聞社
 ・環境ビジネス2007年1月号            出版社:環境ビジネス出版社
 ・biomimicry guild http://www.biomimicryguild.com/indexguild.html
 ・ものづくり推進会議 http://www.cho-monodzukuri.jp/program/2009/05/ws20.html
 ・自然に学ぶ〜バイオミミクリ・プロジェクト(2005.02.22)
    http://www.es-inc.jp/lib/archives/051105_060309.html
 ・「38億年分の知恵を、ともに学ぼう」? JFSバイオミミクリ・プロジェクトは
  http://www.japanfs.org/ja/pages/008920.html

    

筆者は技術経営創研 技術統括部 情報利用開発室 主任