秋山幸司 20100729



    
ドラッカーブーム、再燃!

 今年2010年春、書店だろうか?電車の中吊りだろうか?このような広告をどこかで見た。ピーター・F・ドラッカー氏と言えば、名著『マネジメント』の著者であり、有名な社会生体学者(ドラッカー自身の規定であり、経営学者・社会学者と言った方がイメージしやすいかもしれない。)で、日本でもファンが多いことは知られている通りである。 執筆中の5月現在でも、都内有名書店に足を運ぶと、ドラッカー名著集(ダイヤモンド社)がわざわざ平積みにされている。赤いカバーが目を引くこのシリーズ、書店のビジネス書コーナーに足を運ばれる方は、一度はお目にされたことがあるのではないだろうか?

 つい先月の4月には、『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海著、ダイヤモンド社)という本が出版されており、こちら、マネジメントがメインコンテンツにも関わらず、表紙を見てびっくりで、わかりやすく言うと、アキバ系なデザインになっている。しかも中々売れているらしいから、あなどれない。さすがはブームか?と思ってしまった出来映えである。




図1 『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著、ダイヤモンド社)


 もちろん、マーティングの一環としてだろうが、同じくダイヤモンド社発行のビジネス紙である『週刊ダイヤモンド 10年04月17号』(ダイヤモンド社)の表紙を、この『もしドラ』(こう略すそうで…。)の表紙がタイアップして飾っており、「もっと知りたい!ドラッカー」という特集が組まれている。駅の売店でも見かける雑誌なので、最初に見かけたときは、二度見したくらいに別分野の雑誌に見えるインパクトだった。ちなみに、HP(http://www.moshidora.jp/blog/)が立ち上がるくらい人気がある(力を入れている?)ものらしいので、ご興味がある方は、訪れてみてはどうだろうか。

 さて、懸命な皆様はもうお分かりだと思うが、今回はドラッカーである。ここに寄稿する機会を頂いたので、ブームなのが本当かどうかは別として、ブームに乗って、改めてドラッカー著『現代の経営』(ダイヤモンド社)を読み、社会に出て、働くものとしての復習の機会とした。題材が著書『マネジメント』でないところは、筆者が天の邪鬼である故、ご容赦頂きたい。 そうなると、ここは「科学技術の夢とロマン」というテーマではないのか?とご指摘を頂きそうではあるが、経営学は社会"科学"の一つなので、広い心で見守って頂ければ幸いである。

    
ピーター・F・ドラッカー

  さて、内容としてはマネジメントの領域になるのだが、ドラッカーを知らない方がいるかもしれないので、簡単に紹介を。ピーター・F・ドラッカー氏は、1909年オーストリア生まれの経営学者である。企業コンサルタントや教授職を生業とし、2005年11月に亡くなるまで、自宅でも研究活動を続けた。しばしば「現代経営学」や「マネジメント」の父と呼ばれる人である。

 ドラッカーは、その卓越した先見性により、社会などの根本的な変化をいち早く提示した。企業や社会を俯瞰し続けた彼は、非常に影響力のある経営学者として、産業界のみならず、多方に渡り人気を誇った。彼の偉業については、至る所で見ることができるので、ご興味のある方は、ネットで検索するだけで彼の足跡の数々を知ることができるだろう。)




図2 ピーター・F・ドラッカー氏 (著書『仕事の哲学』(ダイヤモンド社)より)

『現代の経営』

  今回題材として取り上げた『現代の経営』(ダイヤモンド社)は、1954年、ドラッカーが44歳の時の著作で、マネジメントについての読みやすい入門書という位置づけである。後年に執筆された『マネジメント』(1973年)は、総括的な決定版を意図されたものであり、作品名としては、おそらく後者の方が有名だろう。

 では、単純に本書の魅力は何か?と言われれば、同書に限らず、ドラッカーの著作については様々なところで散見する意見だが、まるで半世紀も前に書かれたとは思えない内容である、ということに尽きる。もちろん、内容については、言及する必要もない。読まれたことがある方はお分かりだと思うが、同書に書かれている内容は、今日、言われていることと何ら変わるところがない。初めて同書を読んだときには、その執筆された年を思い、非常に違和感を覚えた記憶がはっきりとある。  




図3 『現代の経営』(ダイヤモンド社)


マネジメントとは

  では、そもそもマネジメントとは何か?何をするものか? ドラッカーは、以下の機能を有する多目的の機関であると言っている。
  1. 事業をマネジメントすること
  2. 経営管理者をマネジメントすること
  3. 人と仕事をマネジメントすること
 1. は、企業が経済的な機関であるから、重要な意味を持つ。 2. や 3. は、社会それ自体が単なる経済的なものとは限らないので、重要な意味を持つ。 彼の規定においては、これらのどれを欠いても、そこにはマネジメントはないのである。

 そして、マネジメントにおいて最も大切なことは、"経済的な成果"である。企業活動の成果には、例えば、以下のようなものも挙げられるかと思う。
  • 従業員の幸福
  • 社会福祉への貢献
  • 文化への貢献
 だが、経済的な成果をあげられないマネジメントは、そもそも失敗である。

 ドラッカーの思想の根本には、「人を幸福にするには」という関心が常にあった。経済的な成功は当然の如く欠かせず、経済的な成果が第一義であるということは、彼が言っているところである。上述した成果を達成するためにも、経済的な成功がなければ何もできないし、それがなければ事業として成り立つこともあり得ない。


企業の目的とは

  では、マネジメントが実践される企業とはどのようなものだろうか。その目的を考えてみるが、ドラッカーは、企業の目的について以下のように述べている。

 「企業の目的は、それぞれの企業の外にある。事実、企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。」

 企業が存続していくために顧客は絶対不可欠なものであり、私たちが今現在こうやって働き、賃金を得られているのも、彼らのおかげである。企業が社会から資源を託されている理由は、顧客に財やサービスを供給できるようにするためである。企業が何かを決定するのは、顧客のみである。企業が自らを決定するのではない。

 これは顧客のみが、支払いによって財やサービスを受けるためである。重要なことは、顧客が何に対して価値を感じているかである。考えてみれば、至極当然のことであるが、今現在に於いて当たり前でも、これを半世紀も前に唱ったドラッカーの卓越したその知識には脱帽である。


事業のマネジメントとは

  最後に、事業のマネジメントは何か、ということについてのドラッカーの結論を紹介させて頂こう。
  • 第一に、事業のマネジメントは起業家的でなければならない。
  • 第二に、事業のマネジメントは、環境適応的ではなく創造的な仕事でなければならない。
  • 第三に、マネジメントは、業績によって評価される意識的な活動でなければならない。
 改めて読み返してみても、どこかのビジネス書で目にしたことがあるような内容が、この半世紀も前の本書に書かれている。今現在も現役のドラッカーファンの経営者(経営者に限らないが。)はたくさんいる。これは、これらのことが本質的であることの、ある種の証明ではないだろうか。私自身、反論する部分は今のところ、考えつきもしない。


改めてドラッカーに触れてみて

  以上、つらつらと書いてみたが、正直のところ、私自身ほとんど内容を忘れていた。反省である。日々の業務に於いて、マネジメントなど意識しない方も多いかと思う。だが、企業活動の一端を担っている立場を自覚し、根本にある本質を知り、意識しておくことは大切である。

 今回の内容は、マネジメントということに関して言えば、入り口にも立っていないような触り程度だが、すべてはここから始まっている。製品知識や業界動向など、業務に於いて大切なことは、たくさんある。社内のシステムをどうするかも考えなければいけない。だが、顧客や自分のいる社会や企業とはどのようなものなのか、どのようなものを目指しているのかを知っておくことは、例えば、相手の立場に立った提案をする上でも必要である。企業活動に携わっていく中で、忘れるべきではない底流を、忙しい日々の中で、少しでも意識することができればと思う。

 "マネジメント"と聞くと、取っつきにくい感がある人も少なくないと思う。だが、成功を納めた経営者の中には、「私はただ、ドラッカーの言うとおりに実践しただけだ。」と言った経営者もいるという話もある。もちろん、実際には容易に成功を納めたわけではないだろうが、それでも自身の社会的・経済的成功のための第一歩として触れておくのもまた、夢のある話ではないだろうかと思うのは、私だけだろうか。

 最後になるが、昨年2009年はドラッカーの生誕100周年だった。偉大な故人を忍び、ここに敬意を表するとともに、ここまでお付き合い頂いた皆様に、たまにはこんな"科学"もいいかな、と思って頂けたら幸いである。  


参考

参考1 P.F. ドラッカー、上田惇生訳『ドラッカー名著集2 現代の経営[上]』、ダイヤモンド社、2006(ISBN: 4478307008)

参考2 岩崎 夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』、ダイヤモンド社、2009(ISBN: 4478012032)

参考3 P.F. ドラッカー、上田惇生訳『ドラッカー名言集 仕事の哲学』、ダイヤモンド社、2003(ISBN: 4478331030)

参考4 ダイヤモンド社『週刊 ダイヤモンド 2010年 4/17号』、ダイヤモンド社、2010
http://dw.diamond.ne.jp/contents/2010/0417/index.html
      
参考5 Wikipedia「ピーター・ドラッカー
http://ja.wikipedia.org/wiki/ピーター・ドラッカー
      
参考6 もしドラHP
http://www.moshidora.jp/blog/
      


筆者は技術経営創研 事業統括部 ビジネス開発室 主任