藤田岳人 20100930
(c)ダイムラー社 in 2010 パリモーターショー

    
家電量販店でバイク!?

 9月27日の新聞報道で、以下のような掲載があった。 「ヨドバシで電動バイク テラモーターズ、電動バイクをヨドバシカメラマルチメディア Akiba で発売 」  発売されるのは、テラモーターズ社が開発し中国で生産された「原付き第一種」相当の電動バイクで、鉛蓄電池を搭載し1回の充電で40kmほどの走行が可能だという。




図1 テラモーターズ社の電動バイク(http://www.terramotors.co.jp/)


 ヨドバシカメラのみならず、既にビッグカメラ、エディオンなどの家電量販店でも同様の電動バイクの販売が開始されている。エンジンは無く、バッテリーでモーター稼動し、家庭用の電源で充電が可能ということで、もはやバイクも家電の一種となった感がある。

    
国産電動バイクの開発も進む

   昨今のエコブームの影響もあり、エコカーのみならず、バイク分野についてもエコの流れが押し寄せている。前出の家電メーカーで取り扱われている製品は中国製のものであるが、日本のバイク・スクーターメーカー各社も相次いで「電動スクーター」の製品開発・発売を進めている模様で、2009年の「電気自動車元年」に引き続き、2010年は「電動バイク元年」ともいわれている。

 ヤマハ、電動バイク「EC-03」を発表(2010/07/14)
 http://journal.mycom.co.jp/news/2010/07/14/057/index.html

 ホンダ、フル充電で30km走行できる電動バイク「EV-neo」を2010年12月発売(2010/04/15)
 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20100414/1031507/

 スズキ、電動スクーター「e−Let's」を開発し公道走行調査を開始(2010/09/27)
 http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=262116&lindID=4




図2 国産メーカー各社の電動バイク
(左より、ヤマハ EC-03、ホンダ EV-neo、スズキ e-Let's)


 いずれの国産メーカーも、バッテリーにはリチウムイオン電池を搭載しており、この点が中国製のもの(鉛蓄電池)との大きな差となっている。100年以上の歴史を誇る鉛蓄電池に対し、リチウムイオン電池は実用化されてから20年程度の技術である。軽量・長寿命・急速充電が特徴であるリチウムイオン電池の利用については、電動バイク先進国の中国でも最近になって普及し始めている。

    
中国での電動バイク事情

   上記で「電動バイク先進国」と挙げた中国では、1997年頃から電動バイクが普及しはじめ、免許不要・ナンバー不要であることから、自転車の代替品として人気を集めるようになった。また、都市部ではガソリンエンジンの規制などがあったこと、最近では農村部への電動バイクの普及推進など、行政による追い風もあって、近年は爆発的な伸びを見せ、年間3000万台もの電動バイクが製造されているという。インフラとしても、街中に充電ポイントがあり、1元(約14円)で充電可能となっているという。



図3 二次電池による社会システムイノベーション第6回フォーラム(2010年7月6日) 
「e-Bile その技術と市場」(ヤマハ発動機株式会社 小林正典)より


 但し、用いられている電池は未だ鉛蓄電池がほとんどであるという。鉛蓄電池は価格面で有利で、安い電動バイクは2万円程度で販売されている。

    
日本での電動バイク事情

   日本での電動バイクについては、ヤマハが1991年以来、何度か東京モーターショーに試作を出展していたが、実用販売されたのは 2003年の Passol であった。この Passol はリチウムイオン電池を搭載し、価格は 20万円とガソリンエンジンの原付きバイクに比べて高価であった。また、2005年にはリチウムイオン電池のリコール問題が発生し、販売停止となった経緯を持つ。この Passol の後継となり 2005年に発売された Passol-L も同様にリチウムイオン電池の不具合で2006年にリコールに追い込まれている。この度、2010年9月1日に販売を開始したEC-03 は、ヤマハにとっても3度目の挑戦となっている。

 一方、電動バイクではなく、自転車の動力アシストを電気式モーターで制御する電動アシスト自転車として、1993年にヤマハの初代PASが販売開始されている。初代はニッケルカドミウム電池を用いていたが、その後ニッケル水素電池、リチウムイオン電池とバッテリー技術の発展と共に進化を遂げており、より軽量・高出力・短時間充電へという利便性が追及されてきた。



図4 二次電池による社会システムイノベーション第6回フォーラム(2010年7月6日) 
「e-Bile その技術と市場」(ヤマハ発動機株式会社 小林正典)より


 PASがリチウムイオン電池の搭載を開始したのが2004年で、初代の電池容量は 3.7Ahだった。これが、2010年モデルでは 8.1Ah まで拡大している。一方、電動バイクの Passolは14Ah、Passol-Lでは 24Ahという高容量のリチウムイオン電池が用いられており、リコールの経緯からも、高容量のリチウムイオン電池の実用化技術としては、2000年前半は過渡期であったように思われる。電動アシスト自転車はその利便性から消費者の心を掴み、進化を続けながら今日までに40万台に迫る累計販売台数となっている。

 このように、日本ではガソリンエンジンのバイク(スクーター)と電動アシスト自転車が住み分けした状態が続き、今年になってリチウムイオン電池搭載の電動バイクが各社より本格的に登場した歴史となっている。中国で普及した、「鉛蓄電池式の電動バイク」という形態が、日本ではスッポリと歴史から抜け落ちていたことがわかる。電動バイクの普及には、技術的な問題以外にも、道路交通法や排ガス規制等の関連法規制や行政の対応など様々な要因が重なっているが、この状況は技術的・社会学的・経済学的にもなかなか興味深い内容である。

    
電動バイクのエコ度

   日本では、世界に誇る低燃費のガソリンエンジンバイク、ホンダの「スーパーカブ」(30km定地走行で 110km/L)や、バッテリーやモーターを高度に制御する電動アシスト自転車など、2輪車の分野でも独自の技術を駆使した製品化が進められてきた。近年になり、高性能バッテリーの普及やエコブーム・ハイブリッドカーブームの影響も受けて、国内メーカーもリチウムイオン電池式の電動バイクの開発・販売を進めてきた模様である。

 走行コストについては、30km/h定地走行のカタログ値の比較では、

表1 走行コスト(30km/h定地走行)
電動バイク(ヤマハEC-03) 18円(充電電気代)/ 43km = 0.42円
ガソリンバイク(ホンダスーパーカブ) 120円(ガソリン)/ 110km = 1.1円
ガソリンスクーター(ヤマハJOG) 120円(ガソリン)/ 66km = 1.82円

といったように、圧倒的に電動バイクが優位となっている。また車両本体価格(税抜き)は以下のようである。

表2 車両本体価格(税抜き)
電動バイク(ヤマハEC-03) 240,000円(補助金最大2万円)
ガソリンバイク(ホンダスーパーカブ) 195,000円
ガソリンスクーター(ヤマハJOG) 143,000円


 勿論、トータルの利用コストについては、電動バイクであればバッテリー交換費用、エンジン式であればオイル等のメンテナンス費用も含めて比較する必要があるが、この価格差を消費者はどう見るであろうか。一桁上げれば、トヨタのプリウスとヴィッツとの差と見ることもできる。エコカーブームでプリウスが人気を集めたのと同様の現象が、バイクで見られるであろうか。

    
電動バイクの技術とロマン

   複雑な機構と膨大なパーツからなるエンジンに比べ、モーター式の動力は極論するとバッテリーとモーターがあれば組み立てが自由である。中国では、電動バイクメーカーが3000社近くあるというのも、参入しやすい技術だからといえよう。また、利用される電池も枯れた技術である鉛蓄電池を利用することでバイクとしての基本性能を出すことができるため、中国でこれほどまでに普及してきたと思われる。いわば、適正技術の利用により、庶民にも手の届く低価格という市場ニーズにマッチした製品を提供できた例であるともいえよう。




写真出典:技術経営創研調査報告書(2009年)より


 一方、日本では長らくガソリンエンジン式のバイク(スクーター)が手軽な動力源として確立しており、電動バイクへの注目は少なかった。しかし、電動アシスト自転車という高度な制御を必要とする電動2輪車については、一定の普及が見られてきたのは興味深い。   「エコ」という考えからすると、動力源の無い自転車が一番エコなのだが、ここに技術を駆使して「ラク」を追及するために、電動アシスト機能が開発されてきたことになる。

 ところが、昨今のエコブームが訪れ、車のハイブリッド化、電動化が進むにつれ、バイクにも「エコ」の波が訪れ、今年になって電動バイクが注目されることになってきた。各メーカーは先端技術を導入し、リチウムイオン電池を使った電動バイクを開発している。ヤマハがリチウムイオン電池のリコール問題に何度も直面してきたことからも、安全で高性能なバッテリーを実用化することは相応の技術力が必要であることが伺われる。いわば、ハイテクを用いて「省エネ」「エコ」を実現する製品を市場に提供していく例であるともいえよう。

 このように、一口に技術といっても、「最先端」だけが技術ではなく、従来からの伝統的な技術(「枯れた技術」とも言われる。悪い意味ではなく、不具合などが出尽くし、対応もとられており安心して利用できる技術、という意味合いで用いられることが多い)を利用して実用的な製品を作ることも可能である。また最先端の技術も、実用化され、トラブルにも揉まれながら技術としての完成度が高まり、いずれは「枯れた」技術となっていく。科学技術の夢とロマンは、「最先端」だけにあるわけではない。

 電動バイク元年となる今年、家電量販店で中国製の鉛蓄電池式電動バイクが販売され、また国内バイクメーカーからはリチウムイオン電池式電動バイクが販売される。いずれは、「中国製のリチウムイオン電池式電動バイク」が家電量販店でも販売されることが予想される。市場の評価、技術の成熟度など、今後の動向にも注目していきたい。

    
参考

参考1 テラモーターズ
http://www.terramotors.co.jp/

参考2 ヤマハ エレクトリック コミューター EC-03
http://www.yamaha-motor.jp/ev/ec-03/

参考3 ホンダ ビジネスユース向け電動二輪車 EV-neo
http://www.honda.co.jp/news/2010/2100413-ev-neo.html

参考4 スズキ 電動スクーター e-Let's
http://www.suzuki.co.jp/release/d/2010/0924/index.html
      
参考5 「e-Bile その技術と市場」(ヤマハ発動機株式会社 小林正典)
            (二次電池による社会システムイノベーション第6回フォーラム(2010年7月6日)より)
http://www.nijidenchi.org/up_image/kobayashi.pdf
       
参考6 技術経営創研調査報告書(2009年、非公開)