石毛雅美 20100830
コラム
技術素人の目線でみる発明




    
発明の形とは

 世にいう「発明家」を思うとき、私はよく、伝記等で読んだことのある「発明王エジソン」や「ライト兄弟」を思いうかべた。学校に適合できず母親から教育を受け、現在も「発明王」と称されるエジソンは、「蓄音機」「白熱電球」「映画」など、生涯に1100件の特許を生み出し、ライト兄弟は、危険が伴ったであろう数々の実験の末、人類初の「有人動力飛行」という歴史的偉業を成し遂げた。これらの発明は、現在の私達の生活を支えている様々な技術の基盤となり、伝記を読んだときの私は、発明が世界を変えるという夢あるドラマティックなストーリーに心を動かされた。




図1 (左)エジソンと電球、(右)ライト兄弟の「ライトフライヤー号」


 一方の私は全くの文系人間であり、発明者のような視点に立つことは難しいまま現在に至ってしまったが、比較的規模の大きな国際特許事務所で勤務をしていた時期がある。その職場では、仕事中には特許(発明)に関する書類が目の前を大量に飛び交っていた。扱われるのは大手企業の特許ばかりであったが、明細書には専門用語が連なり、請求項こそ若干違うが、発明名称の酷似した出願も数多かった。私のような技術素人には不思議と思われるほどの膨大な件数の、そのような特許が、日本を含め各国に出願されていった。

 もちろん、特許を取得するために必要な出願者(企業)の労力と投資、事務所側の厳密な管理対応の経過は自分でもわかっていたため、特許証が届いた際には、私のような者にもある種の達成感を分けていただいていたし、勉強を進めるにつれ、その戦略的な意味合いも徐々に理解していった。しかし振り返ってみても、「特許証」自体は、かつて自分がイメージしていた「発明」となかなか結びつきにくく、「ここからどうなるのか・・・」と思いながら出願者へと特許証をお渡ししていた。

    
発明の保護と日本

   発明とは一体どのように定義されるのであろうか。日本の特許法によれば、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のものをいう」とされている。また、特許制度の目的は、特許法に「発明を奨励し、産業の発展を図る」と書かれている。

 エネルギー資源を主に輸入に頼る日本の経済成長を振り返ってみると、これを支えたのは日本の技術力の成長であったことは明らかであって、技術力の強化のために、特特許制度をはじめとする知的財産保護政策が重要なインフラとなってきたことはいうまでもない。

 アメリカに端を発した「プロパテント政策」から遅れること約20年、「ものづくり大国日本」が各国の猛追によって陰りを見せ始めたその頃、日本においても「知的財産」(以後、一部は知財と略)という言葉がビジネス界に浸透し始めたという。2002年7月に、政府は日本のプロパテント政策として「知的財産戦略大綱」をまとめ、同年11月には知的財産基本法を制定し、翌年2003年には知的財産戦略本部の設立、知的財産推進計画の発表など、稀といえるほど短期間での展開を見せた。知的財産の強化が重要であることが政治家や官僚に強く認識され、「知財立国・日本」実現のため、インフラ整備が迅速に行なわれてきたことがうかがえる。





 知財は通常「保護」「創造」「活用」という3つの側面から考えられる。政府のインフラ整備は「保護」の強化であり、これはすなわち「創造」するための環境整備であるとも考えられる。ちなみに昨年2009年の特許登録件数は193,349件で、前年対比109.3%となっており、ある面では「保護」「創造」について堅調であるということができる。一方で、知的創造サイクルの最後の1つ「活用」についてはどのような状況であるかというと、近年ビジネストークのテーマにもしばしば上がりつつあるように、「休眠特許」という問題を抱えている状況にある。

    
休眠する特許と知財流通

   休眠特許とは、防衛特許として出願を果たしたものの、商品化に至らないまま未使用で眠っている特許などのことで、特許維持年金だけがかさんでいくため、企業にとってはお荷物にもなっている。技術素人の私が冒頭にイメージした「エジソン達の発明」と、特許の現状とに乖離を感じるのは、この休眠特許にも少しだけ関係があるかもしれない。使うための技術の発明と、使われないまま山積みになっていく特許証のイメージ・・・。

 技術素人の目線から乱暴に述べることを許してもらうと、私のような一般人にとってやはり発明は、「発明品」となって人間社会に機能的に役立つことで、改めて「発明」と認識されうるのかもしれない。さらに、中小企業やベンチャーにとっては魅力的となりうる技術が、特許証の山のどこかに多く眠っていると思われるこの状況を、日本が得意とする「もったいない精神」でぜひ打破し、活用の気運が高まればと、強く願ってしまう。

 知財流通の歴史を振り返ってみると、日本テクノマートや社団法人発明協会、財団法人日本特許情報機構(JAPIO)等によって、データベースの構築、展示会や商談会の設営、特許流通アドバイザーの派遣事業などを通して、徐々に推進されており、成果も増えてきている。今後ますます成功事例が増えることが期待されるのはもちろんであるが、それと同時に、一方では知財ビジネス人材の拡大等の課題も徐々に浮き彫りとなっている。

    

ゴールに繋がる新たなステージへ

   2010年3月、大手町において、フジサンケイビジネスアイ主催で「知的財産を生かすビジネス者フォーラム2010」が開催され、これを私も拝聴させていただいた。




図2 「知的財産を生かすビジネス者フォーラム2010」
日刊 Fuji Sankei Business i. 2010年6月18日 掲載記事より


 知財ビジネスに携る人材の育成の問題の他に、高い技術力や特許力がありながら収益に結び付けられない日本の状況改善、パテントプールを可能とするワンストップサービスの設立、技術価値を高めて海外へという視点等々、今後の日本を左右しうるといえる重要なテーマが各方面の専門家達から次々聞かれ、横たわる課題の多様さを痛感する一方で、世間が今後ますます特許の「活用」に注目をしていくであろうという状況には、胸が高鳴るような思いもあった。さらに、「創造・保護・活用」という知的創造サイクルにおいては、各フェーズが有機的につながって初めて機能すると考えられるため、「創造」「保護」の面における一定の成果を守っていくためにも、今後ますます「活用」にも焦点が置かれることとなろう。自社技術のみに頼るより、特許流通を「経営の道具」と認識する企業が増えつつある中、官民一体となった今後の「特許活用」への動きに、私も注目を続けたい。

 ところで、特許流通アドバイザーの意見として、特許流通事業においては、ライセンサーの技術・特許等のデータベースの整備やセミナー設営が有効であるとしながらも、ビジネスを企画し展開する事業者側がそれを活用できて初めて効果が発揮されるという構造から、特許流通の主役を「事業者」とみており、ライセンシー側の努力の大きさに着目する視点があることを知った。研究開発の重要性については、言うまでもなくますますその意義が増していくであろうが、まさに今、特許の「活用」そのものも主役と認識される時代へと比重が移り変わっていく最中にいるように思われる。この夏には2010FIFAワールドカップに世界中が熱狂したが、得点へ繋げる最後の「決定力」を追求するフォワードの役割を務めるような企業が新たに出現してくるのを楽しみに、今後の特許動向を見つめていこうと思う。




    
参考

参考1 発明王エジソン
http://www.edisonworl10.com/invention/sixties.html

参考2 ライト兄弟
http://www.wetwing.com/wright/
http://www.kiui.ac.jp/~hiro6368/wright-story.html

参考3 知的財産、発明ってなぁに?
http://jp.fujitsu.com/about/journal/tips/intellectual/index001.shtml

参考4 第68回「知財立国の実現に向けて」(2010/03/10)
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/rensai/nrichizai.cfm
      
参考5 2009年出願件数及び登録件数(経済産業省 特許庁HPより)
http://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/pdf/2009tourokukensuu/kensuu_2009.pdf
       
参考6 目覚めよ!休眠特許
http://allabout.co.jp/career/invention/closeup/CU20010502/
       
参考7 知財流通の歴史と現状 <弁理士は知財流通に如何に関与すべきか>
http://www.jpaa.or.jp/activity/publication/patent/patent-library/patent-lib/200703/jpaapatent200703_027-034.pdf
      
参考8 知財のビジネスでの活用策と知財人材の拡大策―特許流通アドバイザーの視点から―
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/244kiko3.pdf
       
参考9 知的財産を生かすビジネス者フォーラム
http://www.business-i.net/event/pif/pdf/forum2010.pdf
       

筆者は技術経営創研 マッチング部 国際産官学連携支援チーム