石毛雅美 20110929




    
はじめに

 2011年6月、東日本大震災で被災した地域で生活する高齢者への支援活動として、大和ハウス工業が岩手県・宮城県・福島県の高齢者向け施設にセラピー用アザラシ型ロボット「パロ」を2年間無償で貸与すると発表したことは、記憶に新しい。高齢者を支える企業の積極的な活動姿勢としての意義はもとより、「高齢者支援」という細やかな現場でのテクノロジーの活用といった点でも、インパクトを持って受け入れられた部分は大きいであろう。

 今後数十年の間に確実におとずれる日本の高齢化社会と、それを支える技術、今後欠くことはできないであろう高齢者支援技術について、いくつかの動きを見てみたい。

    
1.確実に、急速におとずれる高齢化社会

  総務省統計局の2010年推計によれば、現在の日本の人口は約1億2700万人で、約4人に1人(約25%)が65歳以上の高齢者である。出生・死亡率等が現状並みで推移した場合、2055年の人口は約9000万人になり、国民の41%が高齢者になるという。今後、医療の進歩等で死亡率が改善して平均寿命が高めに推移し、また出生率が低下していけば、2055年の人口は約500万人減少し、国民の44%が高齢者となると推測される。

 尚、日本と同様に高齢化問題を抱える先進国は、高齢化率7〜14%から14〜21%へ増加するのに50年以上かかったのに対し、日本はわずか24年で到達している。日本人の平均寿命は83歳と世界で最も高く、日本は高齢化率、高齢化スピード、平均寿命のどれをとっても世界一という現状である。

 人口の半数近くが高齢者となる社会は決して絵空事ではなく、確実におとずれる我々の未来像であり、高齢者及び介護者のQOL(Quality Of Life:生活の質)の向上は、社会全体の大きなテーマとなっている。




日本の人口ピラミッド (左:2010年右:2050年) (C)総務省統計局
(国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」の中位推計に基づく)


    
2.「パロ」が代表するセラピー型ロボット

  前述の「パロ」は、タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルにしたセラピー用ロボットであり、独立行政法人産業技術総合研究所によって開発された。人と動物の触れ合いにより人の心の病を治療・予防し、体のリハビリテーションに役立てる「アニマルセラピー効果」が期待でき、2005年からは知能システムにライセンスを与えて発売が開始された。



(c)独)産業技術総合研究所、大和ハウス工業株式会社

 「パロ」は、FDA(アメリカ食品医療薬品局)より医療機器として承認を得ており、現在では世界30カ国以上の高齢者施設や病院で導入されている。また、2002年には、「Most Therapeutic Robot(世界一セラピー効果があるロボット)」としてギネスブックにも認定され話題となっており、日本発のロボット技術が世界へと羽ばたいた好例といえる。

 またその他にも、ビジネスデザイン研究所が発表し、株式会社ifooが販売している、世界初の感情を理解するロボット「よりそいifbot」は、話し相手の感情を読み取って5歳児レベルの会話が可能なほか、LEDを使った40種類の喜怒哀楽の表情を織り交ぜることが可能で、数万種類の会話ができる。高齢者向けの歌やクイズなど脳をトレーニングするコンテンツの他、メディカルチェックやカロリー計算などの実用コンテンツも擁し、高齢者の健康寿命を延ばすことにも役立てられ、高齢者を支える現場で活躍している。

    
3.さまざまな高齢者支援技術

  セラピーロボットの他にも、高齢者を支援する技術には、例えばパナソニックが開発した「ロボティックベッド」が有名である。介護を必要とする方が、自らの力で日常の生活を送るためには「安心・安全・快適な移動」が必要であるが、ベッドから車椅子への移乗作業は現状では2人がかりの介助が必要で、さらに移動時には転落の危険もある。「ロボティックベッド」は、ベッドと車椅子に相互に形状が変化し、介護を必要とする方が自らの意思で容易にテーブルについたり、家族団欒をしたりでき、自立した日常生活を可能にしている。現在、小型化・軽量化に向けて機能を見直し、2011年度に試作機を開発する計画となっている。

 また、パナソニックのロボットについては「洗髪ロボット」も有名であり、スキャニングにより頭の形状を測定・記憶し、左右のアームに搭載した計16個の指先により、頭に沿って手洗いや泡洗浄を行い、手洗いの快適さやこまめさをロボットで実現しているという。「洗髪ロボット」は2012年の実用化を目指しているという。

 また、体にスーツを装着することにより身体機能をパワーアップする「パワーアシストスーツ」では、2008年10月にリース販売を開始したサイバーダイン社の「HAL」が話題となったが、2010年2月に東京農工大が開発した「高齢農業従事者向けのパワーアシストスーツ」も注目されている。金属とプラスチックでできた外骨格に、着用者の腕や脚の力を増幅させる電動モーターの他、動作を感知するセンサーと出された指示を認識する音声認識システムを搭載しており、中腰で辛い作業が必要となる高齢農業従事者の身体的負担を軽減することができる。2011年には軽量化と低価格化を実現した新モデルを発表している。

 さらに、ロボット以外にも、ICTを活用した高齢者見守り事業「とくったー」など興味深い動きも見られる。NPO法人が主催し、徳島市内の一般住民や商店主などのボランティア有志がツイッターを活用して1人暮らしの高齢者を緩やかに見守るシステムで、見守ってほしい高齢者を「見守られ隊」、見守りたい人を「見守り隊」として、iPhoneを活用して参加する。高齢者が簡単に使える見守り専用アプリケーションがインストールされている他、タッチする、なでるという高齢者にもなじみやすいスマートフォンの機能が活かされ、高齢者に高く評価されている。純粋なコミュニティーとしてのみならず、とくったーではツイッターの発言内容を解析し、体調の思わしくない人を自動的に見つけ出す「見守りサーバー」が稼動し、体調が悪い高齢者がいる際は担当の見守り隊に連絡し、メール・電話での連絡や、必要に応じて家庭を訪問する仕組みとなっているという。

 また、動体視力や明るさ感知能力が低下する高齢者、近年増加している高齢者ドライバーにとっても見やすい標識技術として、住友スリーエム株式会社の「3M?ダイヤモンドグレードTMDG3超高輝度反射シート(広角プリズム型フルキューブ)」なども例として挙げられる。

 この他にも、技術を高齢者の生活の様々な局面で活用する例は多種多様に存在するが、いずれの例においても、高齢者の立場に立ち、生活の視点を細かく分析し、高齢者のQOLを高めるべく開発が続けられていることがわかる。(その他の例:ホームアシスタントロボットパーソナルモビリティなど)

    
4.高齢者の気持ちに寄り添う存在となりうるか

  筆者を含め、介護の「現場」を実際に知らない者たちは、「ロボット」など人間以外の技術に高齢者のQOLを担わせるということについて、多少「冷たいコミュニケーション」といった印象を持ってしまう場合もあるのではないだろうか。しかし、高齢者支援技術を知るにつれ、更に一歩、高齢者の近くに寄らねばわからない気持ちの問題も見えてくる。

 スウェーデンで高齢者や要介護者へのインタビューを実施した例に、「お風呂やトイレの介助は人間には手伝ってもらいたくない」「ヒューマノイドロボットの完成に期待している」というコメントがあった。

 前述の「洗髪」についても、ロボットなしでは2人がかりの作業であり、要介護者が毎日の洗髪を希望する一方で、手間がかかるために実際には1週間に2回程しか実施ができない状況であるという。ロボットを使用することで、清潔に、そしておしゃれもでき、引きこもりの防止や社会参加支援にも貢献できる。

 同様に、車椅子への移乗作業についても、ロボットを使用することで、高齢者が寝たきりから解放され、介護者に頼まずに自由に移動できると同時に、介護者を悩ませている深刻な腰痛や体の負担も軽減することができる。




 2009年内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によれば、高齢者が感じる不安で最も多いのは「本人または配偶者の健康」であり、次いで「本人や配偶者の介護」であった。高齢者は、身体的な衰えによるOQLの低下だけではなく介護の負担を懸念しており、こうした不安を技術の活用で少しでも取り除くことができることは、言うまでもなく重要な視点である。

 もちろん、技術が人の作業を完全に代替することは求められようもない。しかし科学技術は、高齢者の不安を軽くし、人間の尊厳を確保するという、重要な側面を担う可能性を秘めていることに気づかされる。人間を主体とし、技術を高齢者支援に積極的に活用することによって、高齢者が気兼ねすることなく快適な生活を送ることができればと改めて感じるところである。

 一方で、「機械は便利でも使いたくない」という意見も少なくないため、テクノロジーが社会的に受容されるかどうかという研究も、今後ますます重要となっていくであろう。

    
おわりに

  今後、世界の人口は約70億を超えて拡大し、高齢化の加速のもと2050年には高齢化社会は世界の問題になると言われている。一方、高齢化社会の進行は、社会的な「負」の要因であると同時に、ビジネスチャンスとも捉えられている。

 2011年8月に閣議決定された「日本再生のための戦略に向けて」でも、「成長型長寿社会・地域再生」という方針の中で、「高齢者に優しい自動車の開発や創意工夫あるロボット・福祉機器の開発・実用化等、生活分野を中心に高齢者向けの商品開発・普及を図る」と記載されている。日本が震災復興を目指す中にあっても、高齢者支援技術は重要な位置を占め続ける分野といえる。

 今後の日本が、世界一の高齢化社会を強みとして、高齢化支援ロボットを含む様々な技術の実用化を更に進めるとともに新市場を創出し、「人に寄り添う高齢化支援技術」の世界的なモデルとなり、持続可能な経済成長を遂げることに期待したい。




    
参考URL

参考1 旭リサーチセンター トピックス サービスロボット〜日本のニーズと施策
http://www.asahi-kasei.co.jp/arc/topics/pdf/topics_013.pdf

参考2 財団法人油脂工業会館 第42回表彰 油脂産業優秀論文
             「日本を活性化する『高齢社会モデル国家』の実現に向けて」
http://www.yushikaikan.or.jp/pdf/ronbun1.pdf

参考3 ITmedia エンタープライズ記事
           "心"から人間を支えるロボットとなれるか?――アザラシ型ロボット「パロ」の秘密
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0511/18/news121.html

参考4 株式会社ifoo 「会話型パートナーロボット よりそい ifbot(イフボット))」
http://www.ifoo.co.jp/sub7.html

参考5 Panasonicプレスリリース
           「ロボット技術を応用し、『電動ケアベッド(車いす機能付き)』と『洗髪ロボット』を開発」
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn100924-1/jn100924-1.html

参考6 AFP BB News記事 「高齢農業従事者に強い味方、農工大の『パワーアシストスーツ』」
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2718626/5598594

参考7 COMZINE記事 「ICTで高齢者を見守るコミュニティをつくる」
http://www.nttcom.co.jp/comzine/archive/newdragnet/newdragnet55/index.html

参考8 住友スリーエム株式会社 「高齢化社会に向けて求められる道路標識:
           3MダイヤモンドグレードTMDG3超高輝度反射シート(広角プリズム型フルキューブ)の提案」
http://www.mmm.co.jp/ref/tech/tech09.html

参考9 国家戦略室 成長戦略策定会議 閣議決定 「日本再生のための戦略に向けて」
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20110805/20110805.pdf

参考10 ニッセイ基礎研 REPORT 「中高齢者市場と関連産業 − 財・サービスのユニバーサル化−」
http://www.nli-research.co.jp/report/report/2004/11/li0411c.pdf


筆者は技術経営創研 マッチング部 国際産官学連携支援チーム